1つめは、退職すれば、肩書がなくなり、自分のアイデンティティーが失われてしまうこと。たとえば、私たちが自己紹介をする際、「私は教授です」「私はエンジニアです」「私は部長です」といったように、職業や職責とともに名乗るのが、当たり前になっていますよね。それを手放すというのは、誰にとっても不安なこと。退職を躊躇(ちゅうちょ)するのも、無理はありません。
2つめが、仕事でつながった人脈や仕事上の付き合いを一気に失ってしまうこと。それまで仕事中心の人生を送ってきた人にとって、仕事関係のスケジュールがなくなってしまうのは感情的にも受け入れがたいものです。
3つめが、生活リズムが崩れてしまうこと。会社に勤めていれば、何時に会社に行って、何時に帰るといった形で1日の時間割がほぼ決まっていますが、退職を機にそのスケジュールが一変してしまいます。何十年も慣れ親しんできた仕事中心の生活リズムが変わってしまうことは、大きな不安をもたらします。
退職をきっかけに息子の住む町へ引っ越し…
順風満帆に見えた引退生活が破綻した
佐藤 著書では14人の退職者の事例を取り上げていますが、その中で、退職後、最も不幸になってしまったと感じたのは誰ですか。
アマービレ いちばんつらい思いをしたのは、ローレンス(仮名)ではないでしょうか。現役時代から取材を始め、退職後も数年間にわたって追跡調査をして合計11回、インタビューしましたが、その退職後の人生はまさに波乱万丈でした。
ローレンスはもともと会社の財務部門で管理職を務めていたこともあり、在職中から退職後の生活を見据えて、綿密なファイナンシャルプランをたてていました。