2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。

初期のメルカリが、20代30代女子にリーチするためにとった広告戦略とはPhoto: Adobe Stock

ただ広告を垂れ流すだけでは、
ユーザーには届かない

 ペイドメディアとは、企業が費用を払って広告を出稿できるスペースを提供しているメディアのことだ。我々の普段の生活空間は、広告であふれている。

 その枠は全て、広告主が直接かもしくは、代理店を通じてそのスペースに対して、対価を支払っている(なのでペイドメディアと呼ばれる)。種類は非常に多彩で、新聞、デジタル広告(ディスプレイ広告、リスティング広告、動画広告など)、テレビCM、記事広告などが挙げられる(ニューヨークのタイムズスクエアのデジタル広告は、月に2800万円かかると言われる非常にわかりやすいペイドメディアだ)。

 先にも述べたが、データ量は日々増えてきており、ただ単に、広告を垂れ流すだけでは、ユーザーには届かなくなってきている。

 ペイドメディアを使って多額の広告費を払おうとするスタートアップもあるが、燃え尽きてしまう要因になるので、勝機がない限りは、ここに多額を投資することはおすすめできない

 下図で示したように、初期のメルカリは40代以上を捨てて、20代30代の女子をターゲットにして、テラスハウスの出演者を活用してテレビCMを打ち出していった*)。メルカリはCtoC型のマッチングプラットフォームなので、GMV(流通総額)やアプリのダウンロード数が最も重要な指標になる。そういった背景があったので、ユーザーの残存効果やマインドシェアを取るために、CMにリソースを費やした。

 *)メルカリの顧客獲得:https://note.com/caron128/n/n4339eaa3d0fbを参照

顧客のマインドシェアを高めるには

 マインドシェアを取る、認知度を高めるという意味では、ペイドメディアは有効だ。世の中の商品やサービスのほとんどが、ターゲットにしている顧客の50%の認知も獲得していないという事実を鑑みると、顧客の認知度を高めるには、“接触回数”(=フリークエンシー)を増やすことが重要になる。

 広告出稿自体は、「5回目までは認知度が上がる」というデータがある。何度も同じものを見ることで脳にインプットされやすいからだ。その意味ではお金を支払う効果はあるといえる。

 また、商品訴求ではなく、感情にも訴えかける商品のストーリーを訴求することによって、プロダクトの認知度やブランド力も高まることにも留意したい。

広告出稿の5W1H

 一方で、情報過多の今、敬遠されつつあるのが広告でもある。実際、広告ブロックは激増している。自分の行動履歴と自分のセグメントに合ったものが買えるようになった今、ニーズを感じていない状態で広告を目にすると「押し売り」に感じることは覚えておこう。

 実際、広告出稿を本格的に検討することになったら、5W1Hについて考えておきたい。

 Why:何のためにプロモーションするのか
 What:伝えたいメッセージは何か
 Who:誰に伝えたいのか
 How:WhatとWhoを考慮してどのように伝えるか
 When:どれぐらいの期間、どのシーズン、どのタイミングで行うか
 Where:デバイスなどのタッチポイントをどう伝えるか

 留意点として、ペイドメディア向けにクリエイティブを作る時も、顧客に対する独自の価値提案(Unique Value Proposition)をベースにする必要がある。

 つまり、PMFを達成して、独自の価値提案が実証できていないと、クリエイティブで伝わるメッセージを強めることができないのだ。

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。