俊宏社長は今年で就任10年目。いまや、日本の自動車メーカーの現役社長の中で最も在任期間が長くなった。実父である鈴木修元会長のカリスマ性を身近に見てきたことで、カリスマ性よりもチーム力の強化を信条としてきたが、そうしたチーム経営の体制に“円熟味”が増してきている。

 今期の最高益更新は、25年以降、30年度に向けたスズキ成長戦略の推進につながるものだ。

 スズキは23年1月に「2030年度に向けた成長戦略」という長期ビジョンを発表している。日本・インド・欧州を核として、アセアン・アフリカなどの新興国の成長に寄与していくほか、「小・少・軽・短・美」をキャッチフレーズとするスズキならではの方法で、カーボンニュートラル社会の実現を目指すというものだ。

 スズキらしい電動化のマルチパスウェイとして、インドではBEV(バッテリー電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)に加え、CNG・バイオガスといった代替燃料にも取り組む。さらに、将来のインド市場で見込まれる1000万台超えの需要に対応できるよう生産能力増強を図りつつ、インド乗用車の販売シェア50%以上を奪還するために、稼ぐ力の強化をベースとした集中投資を図る。

 スズキ初のバッテリーEVとして、インドで生産しトヨタにも供給する予定の「eビターラ」(スズキブランド名)も発表した。25年夏からインドのほか日本や欧州でも発売する計画だ。スズキのBEV戦略について、鈴木俊宏社長は「トヨタとダイハツ工業とスズキの3社が協力した専用プラットフォームを活用し、上物は3社それぞれで開発する。トヨタにEVを教わるが、スズキはこう考えると思うところは独自に進めていく」との考えを示している。

 現在の26年3月期までの中期経営計画についても、「従来計画を上回る実績を上げていることや、新たな環境、地域市場変化を含め見直しが必要で、早期に進めていく」(鈴木俊宏社長)と口にする。25年から、スズキの攻勢が一層進むことになりそうだ。

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)