2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。

オウンドメディアの立ち上げが経営にもたらす効果とは?Photo: Adobe Stock

オウンドメディアは、
コンテンツがたまっていくストック型メディア

 オウンドとは「自社保有」の意。オウンドメディアは、企業自身が自らの情報を提供できるコンテンツのことだ。自社で構築や運用をしている企業サイト、商品ごとのサイト、運営しているYouTubeチャネルなどを指す。

 狭義のオウンドメディアは、商品情報やブランド情報の掲載されたブランドサイト、会社情報がわかるコーポレートサイト、ブログや有益情報が書かれたコンテンツサイトになる。

 広義のオウンドメディアは、これに加えて機能を提供するサービスサイト、ECサイトが加わる(メルカリやZOZOのようにメディアとして、眺めるだけで楽しいエンタメ要素があるとオウンドメディアの様相を得る)。

 オウンドメディアは、売り切りモデルのフロー型と呼ばれるメディアではなく、コンテンツがたまっていくストック型メディアという特徴がある(下図)。文字通り情報がストックされていくので、時間が経過してストックがたまるほど効果が高くなる特徴がある(月1回更新の10本しか記事がないものより、毎月1回更新される1000本以上の記事があるメディアのほうがユーザーの認知や想起を取ることができる)。

 オウンドメディア、ペイドメディア、シェアドメディア、アーンドメディアの4つのメディアのうち、真っ先に取り組みたいメディアがオウンドメディアだ。しかし、オウンドメディアそのものの成果が出るのは、多少時間がかかる。

 一方で、自分たちが何者なのか、なぜこの商品やサービスを作ろうと思ったかなど、をコンテンツとして整理しておくことは、その後のマーケティング活動に大いに役立つ。

オウンドメディアを通じて、
ユーザーと自社プロダクトとの自然な出会いを演出する

 オウンドメディアを通じて、ユーザーが、自社のプロダクトとより自然に出会うような演出をするのも有効だ。特に、BtoB商材の場合は顧客のそのプロダクトに対するニーズは顕在化していなかったり、緊急性が低かったりする(下図)。

 そういう状態の顧客に対して、いきなり広告を打っても仕方がない。まず「潜在ユーザーを啓蒙」「潜在ユーザーを教育」といういわゆる「ナーチャリング(顧客育成)」していくという視点が必要になる。

良いオウンドメディアの要素はEAT

 また、良いオウンドメディアの要素として、EATというキーワードを覚えておこう。EATはExpertize(専門性)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性)の頭文字を取ったものだ。コンテンツを作る時に、この3つを担保できているかが重要になる。

 このポイントを無視して、ひたすらSEO対策のために、素人記事を量産して炎上し、サービス廃止に至ったWELQ(ウェルク)の二の舞にならないようにしたい。たとえば、HubSpot(ハブスポット)などは、非常にリッチで多彩なコンテンツを扱うブログメディアを運営している。

 また、ベーシックが運営するマーケティングメディアのferretなども非常に豊富なコンテンツを提供している。

 リアルイベントやセミナーを運用することも、マーケティング施策として有効だ。リアルイベントは、会場費や運営費などの費用がかかるが、リアルイベントを通じて、エンゲージメントの高いユーザーの育成やリアルイベントのコンテンツをブログや動画に変換することで、二次利用することも可能になる(下図)。

 イノベーターをつなぐプラットフォームのICCは、毎年、イベントを開催したものを記事化/動画化して、参加ユーザーのファン化や認知獲得を行っている。

 オウンドメディアを立ち上げることは、認知度と好感度が向上する効果があり、採用力の向上にもつながることを留意すべきだろう。

 メルカリやDeNAなどは、採用に特化したメディアを立ち上げ、非常に強い採用力を維持している。

コミュニティマーケティングは
「初期メンバー」が重要

 また、コミュニティマーケティングも有効なマーケティング施策の1つだ。「Sell through the community」と言われるように、プロダクトの検討ユーザーは、広告ではなく、現ユーザーの「実際の声」を重視する。

 これでうまくいっているのが、日本のAWSコミュニティであるJAWS-UGだ。コミュニティマーケティングでは自発性を重んじるために、コミュニティ登壇に対して「報酬」を支払ってはいけない。なぜなら、「報酬」が発生すると「仕事」になってしまうからである。

 また、コミュニティマーケティングにおいては、「初期メンバー」が非常に重要である。初期メンバーのエンゲージメントを高め、「コミュニティを引っ張ることが自らの使命」であるという認識を芽生えさせることが大事だ。

 さらに、そういうメンバーがメッセージを発信しやすくなるようにサポートしてあげることにより、続くフォロワーに熱量を伝播して、コミュニティを盛り上げていける。コミュニティが盛り上がってくると多対多の関係を構築できるようになる。

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。