何が格差を生み出すのか

――社会制度という観点では、「お金」が公平に分配されない「格差」の問題に対して、経済学ではどのようなアプローチが可能なのでしょうか?

大竹 企画展の実験でも紹介していますが、経済現象を物理学の手法で解明を試みる「経済物理学」では、「べき分布」という法則が知られています。

不合理な僕らが<br />「よりよい社会」をつくるにはどうすればいいのか?<br />――「格差」ときちんと向き合うための経済学

 実際の世の中では、運のいい人は勝ち続けて大金持ちになる一方で、運の悪い人はどこかで負けるし、ずっと負け続けて貧しくなる人もいます。勝ち続ける人はほんの僅かで、そういう人たちが大金持ちになります。一方、大多数の人たちは、どこかで負けてしまって貧しくなっていきます。ことの成り行きに任せておくと格差は広がり、不公平な社会になる。だから、運に恵まれた大金持ちは、運に恵まれなかった人に対して再分配すべし、ということです。

 ところが、現実はそう単純ではありません。世の中のすべてを運・不運で片づけられるわけではありません。運のほかにも、適性や努力の側面を無視することはできませんし、運と努力を識別するのも困難です。

 再分配に関する社会的な合意は、なかなか得られるものではなく、公平を目指すあまり再分配を強化すると、努力する意欲を削ぐことにもなりかねません。

「格差」への対処は、最終的には、社会の価値観に依存します。公平であることを大切にするのか、努力することを促すために、多少の不公平は是認するのか――。その答えを経済学で出すことはできません。

 経済学者として言えるのは、「経済的に成功するかどうかには、運・不運の側面と努力の側面の両方がある」ということであり、経済学者は「分配面の目標が決められたときに、最大限努力を引き出すような仕組みを考える」ということはできます。「運」の要素はどの程度大きいと考えるのかは、社会を構成するメンバーの認識に依存すると思います。そういう認識のもとで、私たちがどのような社会を目指すかについて、社会の構成員同士で対話を続けていくしかありません。

知れば、自分を変えられる

――まずは「知る」ことが大切で、そのうえでどうするかを考える。個人の行動と同じく、「賢明な人」であることが重要だということですね。

大竹 今回の「おかね道」の企画展が面白いのは、体験を通じて「知る」ことができ、「知る」ことが、自分の行動を変えるきっかけになるということです。

「現在バイアス」や「損失回避」について知れば、日々の行動を変えていくことができますし、「フリーライド」や「格差」の問題は、ひとりでは社会を変えられないにしても、「知る」ことが、社会に対する関わり方を見直すきっかけになりえます

 そしてこの企画展に来て実験を体験していただければ、「経済学」のことを「お金儲けのための学問だ」と考えていらっしゃる方にも、経済学の面白さや、社会を変える可能性を実感してもらうことができると考えています。経済学にはそれだけの面白さ、そして意義がありますし、「おかね道」の企画展には、それを十二分に感じられる工夫が施されています。ぜひ、多くの人に足を運んでいただいて、「経済学はお金儲けのための学問だ」という認知を変えていただきたいですね。

※大竹先生のお話には、お金と人間、そして社会について考えるヒントがたくさんありました。大竹先生、ありがとうございました!本稿は不定期連載ですが、今後も最前線の研究者にインタビューしていく予定ですので、どうぞお楽しみに!


ようこそ、科学×経済学の実験場へ!

波瀾万丈!おかね道

不合理な僕らが<br />「よりよい社会」をつくるにはどうすればいいのか?<br />――「格差」ときちんと向き合うための経済学

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あなたのお金の使い方には、あなたの判断や行動の“クセ”が現れます。そしてそんな“クセ”が、思わぬ形で社会にも影響を与えているのです。
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