深いユーザー理解への成功アプローチ、二つのパターンとは

 続くクロストークでは、田川欣哉氏のナビゲートの下、ゲストの2人が事業の立ち上げ期、いわゆる「0→1」フェーズを振り返った。

 本間氏の場合、共同創業者の福島弦氏と共にSANUから打ち出す最初のサービスを「セカンドホーム」に決めたのが20年6月。ここからわずか1カ月で建築物のアウトラインや利用料金体系までを固めて7月にリリースを出している。この「爆速の事業立ち上げ」の最大の原動力は、自分自身の中から湧き出る強い感情だったという。

「ちょうどコロナ禍で初めて緊急事態宣言が出された頃でした。息が詰まるような閉塞感の中、僕自身が切実に欲しかったのが『自然の中のセカンドホーム』だったんです。改めて調べると、日本には別荘文化が希薄な半面、都市部からアクセスしやすい自然環境が非常に潤沢です。購入や維持にかかるコストや手間をなくせば必ず成長すると確信しました」(本間氏)

 一方、成澤氏がメルペイの開発チームにジョインしたのは、既に経営層がスマホ決済サービスへの参入を意思決定した後のことだ。まだメルカリのカルチャーも十分にそしゃくできていないうちから、成澤氏が最も注力したのが「経営者やターゲットユーザーへの憑依(ひょうい)」だったという。

「メルカリ創業時の資料には金融事業へ参入する意思が書かれていたし、メルペイには<信用を創造して、なめらかな社会を創る>というミッションが掲げられていました。加えて、メルペイの初代CEOの青柳(青柳直樹)さんは、実現すべき未来像を『よげんの書』というペーパーにまとめていました。経営層が思い描くゴールの姿を常に肌で感じながら、ユーザーの心理や行動を掘り下げるユーザビリティーテストを繰り返し、その人が見ている風景をそのまま見ようとしたのです。それを突き詰めるうちに『なぜカードの請求は月に1回だけなんだろう?』『チャージって本当に必要?』といった<なめらか>でない現状が見えてきました」(成澤氏)

 両氏のエピソードを踏まえ、田川氏は「深いユーザー理解はイノベーションに不可欠ですが、成功例には二つのパターンがあると思っています。一つは、自分自身が典型的なターゲットユーザーである『内発型』、もう一つは徹底的な観察でユーザーの行動や感情を自分の中に再現してしまう『憑依型』です。ちょうど前者が本間さん、後者は成澤さんですね」と指摘した。

 鷲田氏は、デザイン的な視点がいかにイノベーションをもたらすかに着目し「不動産や金融のような規制の強い産業でも、現状に『なぜ?』を突き付けて未活用の資源を探せば、社会に温存されてきた『ねじれ』が見つかり、プロダクトやサービスを通じて解を示せるという良い事例だと思います」とコメントした。