冒頭で紹介したコンサルタントの陳さんは、その背景を次のように分析する。「会社を維持する年間のランニングコストは、オフィスの賃料や社会保障費、税理士などの支出を合わせて最低300万円。それに住居費や生活費などさまざまな出費がかさみます。超富裕層なら、ビルを一棟買って家賃収入で悠々と暮らせるでしょうが、多くの中間層は賃貸住まいで暮らすことになります。3~4人家族の年間必要経費は700万~800万円くらい。まずは確実な収入源の確保が課題となります。
日本における各種のビジネスの中で、飲食店は比較的参入障壁が低い。ワンタンや焼き小籠包といった自国の家庭料理を提供することで、アイデンティティを活かせる利点がある。また、こうした本格的な中国家庭料理は、既存の「町中華」や「高級日本風中華」とは味も店の雰囲気も異なるので、既存の飲食店(中華料理店)とも競合しません」
未経験でも、日本なら「飲食店」をやっていける
中国人は、生活の中でも「食事」にとことんこだわる。日本人も負けず劣らず食への関心が高い。シンプルに「安くておいしい料理」を提供すれば、お客を確保でき、商売をやっていける可能性が高いということだ。
実際、季さん夫婦に「なぜワンタンのお店にしたのですか」と聞いたところ「比較的簡単に始められるからです」という理由だった。季さんは料理の経験がなかったものの、上海でレストランを営む実家から技術を学んだ。現在は地元スーパーから厳選した食材を仕入れ、「当日作ったものは翌日に出さない」と鮮度へのこだわりを持って営業している。
二つの家族は共に「以前の仕事と比べると体力的にはかなりきつい。でも、お客様の満足そうな表情を見ると達成感があるから、頑張れる」と同じことを話していた。日本語が不自由な中でも、新鮮な食材を使い、品質にこだわり、SNSや口コミを活用してプロモーションをし……と、自助努力で顧客を惹きつけている。また、異国の地での苦労を「楽しい」と前向きに捉え、周囲の支えを力に、家族一丸となって新生活を切り開いている点も共通している。商店街や地域住民の支援を受け、地域社会との共生を深めている。
近年、日本にやってくる外国人が増えると共に、文化の違いなどによる問題も生じている。しかし日本は少子高齢化で人口がどんどん減っていく中で、外国人をどう受け入れるかという問題は今後避けて通れないはずだ。この記事で紹介した二組の家族のように、真面目に働き、自らの経済活動で日本経済に寄与している中国人はたくさんいる。日本の文化を認め、日本社会に溶けこもうとする人たちを、日本社会は暖かく迎え入れてほしいと願っている。