休職をすすめるのも、言い方次第ではアウト
――相手にとってよかれと思って言ったことがパワハラと受け取られることもありそうです。
若林杏樹(以下、若林):私が驚いたのは、本書の中に出てきた「メンタルを病んでいそうな人に休職を勧めていいか」という話です。相手を思いやって休職を勧めたり命じたりすること自体はパワハラにはならないけれど、「目的によっては違法になる」と書かれているのを読んで驚きました。
「メンタル不調のときは休まないとダメ」とよく聞くこともあって、自分はバッサリ「休職すれば?」と言ってしまいそうなタイプ。私は今フリーランスなので、上司として誰かにそういったことを言う機会はありません。でも、友人相手にしても、バッサリ言うことで相手に意見を突きつけていると思われたら申し訳ないなと反省しました。
漫画家
大河内薫氏との共著『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版)は発行部数29万部突破のベストセラーに。「年収1300万円の婚活女子」としてネットニュースで話題になるなど、インフルエンサーとしても活躍中
梅澤:職場内と職場外で相談された場合とでかける言葉の評価は変わってきます。
若林さんのケースのように、職場外で「辞めたい」「つらい」といった相談を受けたときに、「休職したらいいじゃん」「本当につらいなら辞めたっていいんだよ」と言ってあげるのは問題ないと思っています。なぜなら、雇用上の契約関係のない間柄で、言葉に対して雇用上の責任が発生しないシチュエーションであれば、それは「友人としてのアドバイス」だからです。
その場合にはむしろ、選択肢の一つとして気軽に休職や転職を提案してあげるほうがいいかもしれません。下手に「そんなことで辞めちゃダメだよ!」「もう少しがんばろう」などと言って健康状態が悪化してしまうと、その方が責任を負えませんし。
――たしかに、思い悩んで相談したのに「がんばれ」と言われるとつらくなってしまいますね。
梅澤:一方で、職場内で相談を受けた場合は、伝え方に注意が必要です。例えば、メンタル不全の人に対して「つらいなら休職すればいい」と伝えるのは、原則としては言っていることは正しいです。
会社は労働者に対して安全義務を負っているので、無理をさせて健康状態を悪化させるのは一番してはいけないこと。その前に止めるのは当然会社の責任です。
ただ、問題は「言い方」で、「お前なんか、そんなメンタルで仕事していても役に立たないんだから、休めばいいじゃん」などと言えば、当然アウトです。これは、相手の人格を否定して「君は会社に必要がない人材だ」と伝えることが目的になっているからです。
そうではなく、相手が追い込まれて視野が狭い状態になってしまっているのであれば、「このままだと体を壊してしまうし、そんなことは会社も望んでいない。会社には休職制度があるから、利用できるものは利用したほうがいい」と提示してあげるのは的確な対応だと思います。同じ内容でも言い方で全然違ってくるわけです。
――印象がまったく異なりますね。
梅澤:後者のような言い方をして、ハラスメントと言われることはおそらくないでしょう。仮に言われたとしても、「そういうつもりではありません。本人にもこのように伝えています」と言えば責任問題にはならないと思いますし。だから、シチュエーションでも違うし、言い方によってもまったく変わってくるのが難しいところです。
若林:そうですね。こちらの思いやりが伝わっていれば嬉しいなと思います。でも、改めてお話を伺って、職場だと本当に伝え方に気をつけないといけないんだなと実感しました。
思いやり+理論武装で、萎縮せずに指導を
――管理職をされている方々へのメッセージをお願いします。
梅澤:マネジメントする上では、思いやりを持つことが一番大事だと思います。ただ、あくまでも仕事ですから、マネジャーという立場上、言うべきことは言わなければなりません。仕事を推進するのも管理職としてのスキルや能力を問われる部分でもありますから。
つまり、管理職は職場環境を整えつつ、かつタスクを確実に遂行しなければならない、重い責任が求められる立場というわけです。だからこそ、それなりのポジションと待遇を得ている構造になっています。
そういうわけで、思いやりの気持ちを持ちつつも、萎縮せずに職務を遂行しなければなりません。そのためには、「理論武装」も必要です。思いやりという感情的な部分と、物事を冷静に進める理論的な部分をバランスよく持ちつつ仕事をするのが大事なのではないでしょうか。難しいことですけれど。
わび:私も、やはり「知識は武器になる」と常々思っています。パワハラだけでなくセクハラも、働く以上いつも隣り合わせの問題なので、本書を読んで、自分だけでなく周りの方々も守っていただきたいですね。
若林:この本に出てくる事例は、漫画にするとコミカルですし、「自分も似たようなことをしているときがあるな」などと共感できる部分もありました。もし、本書の漫画を楽しく読めるなら、きっと自分がハラスメントに対して気をつけることができているということだと思います。漫画と梅澤さんの解説で、何か新しい発見をしていただけたら嬉しいし、ぜひ現場で活用してほしいと思っています。