「上司も部下も、社会人全員が一度は読むべき本」「被害者や加害者にはならないためにもできるだけ多くの人に読んでほしい」と話題沸騰中の本がある。『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)だ。自分はパワハラしない、されないから関係ない、と思っていても、不意打ち的にパワハラに巻き込まれることがある。自分の身を守るためにもぜひ読んでおきたい1冊。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介する。

入社時から10年以上、営業畑一筋の40代マネージャー。突然の異動命令で事務職に…。「本人の希望しない異動」ってパワハラになる?Photo: Adobe Stock

これまでのキャリアとまったくちがうポジションへの異動を命じられた!

【事例】
40代営業マネジャーの男性。チームの営業成績が芳しくないという理由で、内勤の事務職に異動になった。中途入社してから10年以上、営業畑しか歩いていないので、キャリアがまったく活かせない。この異動は違法ではないのか?

【解説】
一般的に、業務内容は本人のキャリアとして蓄積され、キャリア形成による利益は社員にとって無視できないものでしょう。

しかし、労働者は会社に対して「特定の職種や職務での就労を求める権利」はないと考えられています。

これを前提とすると、労働者は自身のキャリア形成について、「法的に保護される権利や利益」を有しないという考え方が原則といえます。

そのため、会社で業務上の必要性が認められる場合には、社員の従前のキャリアとは異なるポジションへの異動も認められるのが原則といえそうです。

今回のケースの場合は、入社時から営業職に勤務していたとしても、それのみで営業職から他職種への配置転換が許されない、ということにはなりません。

雇用契約や就業規則で配置転換がありえることが定められていれば、原則として配置換えについて異論を述べることは難しいでしょう。

嫌がらせ目的や経済的不利益がある場合は、「違法」になる可能性も

しかし、

・配置換えが明らかに嫌がらせ目的であるような場合
・労働者が過剰な経済的不利益を被るような場合

には、配置変更が違法となる可能性はあることには留意しましょう。

「職務内容を限定する黙示の合意がある」ケースとは?

また、特定分野の専門医のように業務内容を積み重ねることが個人の専門的な資格・スキルの糧となり、それを想定して雇用契約が結ばれているケースがあります。

このような場合、採用時点で「職務内容を限定する黙示の合意があった」と認められるかもしれません。

そういった場合に、本人のキャリア形成を奪うような配転措置は、「労働者が通常受け入れるべき不利益の程度を超えている」などの判断から、異動命令が違法・無効となる可能性は十分にありえます。