多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。「ここまでわかりやすく傾聴について書かれた本はないだろう」「職場で活用したら、すぐに効果を感じた」と大反響を呼んでいます。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。

「自己開示」をして、かえって嫌われる人の「勘違い」ワースト1写真はイメージです Photo: Adobe Stock

そもそも「自己開示」って何?

 人の話を「傾聴」する際に、聞き手も「自己開示」することが大事です。

 ただし、その「自己開示」は、スパイが調べればわかるような自分の個人情報を伝えることでもなければ、「私も同じような経験をしたことがあります」などと相手が話す内容と似た「自分の体験」を披露することでもありません。本物の「自己開示」とは、別名「今ここ中心の自己開示」とも呼ばれる、話し手と聞き手が存在している「今この瞬間」に、聞き手である自分の中に湧き起こる「感情」を伝えることなのです。

「自己開示」とは、「裸」になること

 話し手が、「自分の体験(できごと)」や「思考」だけでなく、「感情」を話した瞬間に深い自己開示が発生します。

 例えば、相手がこんな話をしてくれたとしましょう。

「先週の土曜日の18時頃、家族3人で外食に行こうと約束していたんですが、息子が『宿題が終わっていないから待ってくれ』というので、家族で30分待っていたんです。
 しかし、40分過ぎても子ども部屋から出てこないので、催促しに部屋に入ると、彼はゲームをしていました。私はかーっと怒りがわいてきて、『何をしているんだ! 勉強するんじゃなかったのか! お母さんとお父さんはずっと待っていたんだぞ!』と大きな声で怒鳴ってしまったんです。
 すると、中学生の息子は気圧されて涙を流して怖がりました。私は、言い過ぎてしまった、と急に恥ずかしくなりました」

 このような「自己開示」をした相手は、たとえるならば、衣服を脱ぎ捨て、裸になるようなものです。相手は勇気を出して、裸になったのです。

相手に「率直」になってもらうには、自分が「率直」であること

 その時に、聴き手が冷静にスーツを着て、ネクタイをしていては、話し手を傷つけてしまいます。

 相手に裸になってもらうのであれば、こちらも衣服を脱ぐことが必要です。つまり、相手にリスクテイクを求めるのであれば、こちらもリスクテイクしなければ平等ではないということです。

 ただし、この時に、「私も同じような経験があります。うちの娘が……」などと「自分の体験」を開示するのはNG。「相手の経験」と「自分の経験」は別物です。それを一緒くたにされると、むしろ相手は「そうじゃないんだ……」などと違和感を持つだけです。下手をすれば、嫌悪感すら持たれてしまいかねません。

 そうではなく、相手の「エピソード」や「感情」に触れて、自分の中に湧き起こった気持ちを伝えることで、こちらも裸になるのです。

 例えば、「あなたのお話を聞いていて、なんというか、胸がキューッと締め付けられるような気持ちになりました……」とか、「今のお話を伺って、反射的に、自分も娘にキツく叱りすぎてしまったことを思い出して、胸が苦しくなりました」とか、自分の中に起きた率直な気持ちを伝えるのです。相手に率直になってもらうには、自分が率直でいること。そのための技法が「今ここ中心の自己開示」なのです。

(この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです)

小倉 広(おぐら・ひろし)
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。
また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。