「人間のために設計された工具や機械をそのまま扱えるというのは、HRPシリーズのかねてからの課題だったんです」
阪口さんは続ける。
「それよりも、ロボットが工具をつかんでビスをまっすぐに留められているという点に注目してください。簡単に見えても、ロボットにはなかなか難しいことなんです。解決方法を思いつくまでは、何度試してもビスが曲がってしまうので、かなり苦労しました」
工具の持ちかたがほんのちょっとズレただけで、ビスは曲がってしまう。人間には、手にした工具をあたかも自分の身体の一部のように感じて、工具の角度を繊細に調整できる能力がある。だから、ボードに対して垂直にビスをねじ込むことは難しい課題ではない。
ところが、5Pのようなロボットには自身の身体に対する感覚などないから、手にした電動ドライバーを身体の延長として扱うためには、自分の手と電動ドライバーが精密な位置合わせによって正確に結合している必要があるのだ。
それには、あるブレイクスルーが必要だったという。
「産総研の別のグループが開発していた視覚マーカーが使えないかと思いついたんです。レンチキュラーレンズというものを使って、微妙な角度のズレを検出できるマーカーです」
「これを工具に貼れば、5Pの手のひらにはもともと小さなカメラがついていますから、マーカーが真正面に来るように位置合わせをしながら工具をつかむことができるようになるのでは、と」
レンチキュラーレンズとは、断面がかまぼこ形の凹凸が、畑の畝のように並んだもの。読者のみなさんも、見る角度によって絵が変化するステッカーをどこかでご覧になったことがあると思う。表面をさわるとザラザラしている、あれのようなものと思っていただければいいだろう。