入試のサブスク化と量的拡大
当連載の「1月入試予想」(第203回 男子受験生編・第204回 女子受験生編)でも指摘したように、24年埼玉入試最大の出来事は、開智所沢中等教育学校の開校だった。募集人員は240人だったが、のべで志願者数7913人、受験者数5371人、合格者は募集人員の15倍相当の3614人を出している。初年度の入学者数は390人で、募集人員の6割強増しという破格なものとなった。25年は募集人員を300人に増やしている。東京都市大学付属や芝国際でその手腕を発揮してきた小野校長の真骨頂でもある。
東京や神奈川で、募集定員をはるかに超える入学者を迎え入れることははばかられるが、埼玉はその点、比較的寛容である。単年度の入学者数よりも、収容人員で考える傾向が学校にはあるからだろう。
小野校長の「イケイケ」感は、募集が好調と見るや、次々に入試のサテライト会場を設けたことにもある。これも東京や神奈川ではまず認められないのだが、学校所在地の他に、交通が便利で東京など県外からの受験生が訪れやすいJR京浜東北線沿いのさいたま市や川口市の駅近くに会場を借りて入試を実施している。受験日が迫るにつれて、次々に満席となる状況は痛快ですらあった。
10日の1回入試では、開智所沢会場(2200人)の他に、さいたまスーパーアリーナ会場(680人/さいたま新都心駅)、河合塾南浦和現役館(200人/南浦和駅)、埼玉教育会館(100人/浦和駅)、そして開智(東岩槻駅)も会場に充てている。
東京や神奈川の受験生にとって埼玉の入試は、多分に「お試し受験」的な要素が強いが、まさに模試感覚で気軽に受けられる点も、今回の「志願者数2倍増」を支えた大きな要因といえそうだ。
開智のグループ校は、最初に2万円の受験料を支払えば、日程がかぶらない限り何回でも受験できる。採点を担当する教員の苦労は多いと思うが、こうした「サブスク」感も、横展開のグループ力のなせる技だろう。また、入試日程を試験問題も含めて同じにした。合否判定は各校で独自性を発揮するものの、希望すれば開智所沢の受験生は開智の合否判定を受けることも可能で、1回で二つ合格が得られるような「お得感」も用意されている。
今回のように前年比2倍増まで出願者数が膨らむとは想像以上ではあったが、ここに挙げたような仕組みが志願者数を膨らませる効果がある点はすでに見えていた。とりわけ開智と開智所沢に関しては、個別に志願者数や実倍率を見ることの意味が薄れてくる。この点をどう評価して判断するかにより、埼玉受験地図の見え方が一変することになるだろう。