今からMBAを目指すのは時間のムダ?

田村:そういった視点から考えると「いい大学に入って勉強すれば一生安泰」という時代は終わりつつある。すると、これからはひょっとしてMBAを取るのに時間を使うのは壮大なムダではないか。そんな気さえしています。もちろん役立つこともあると思いますよ。ただ限りある時間の使い方として、もっと有効な使い方があるんじゃないかということです。

藤野英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)1966年、富山県生まれ。1990年、早稲田大学卒業後、国内外の運用会社で活躍。特に中小型株および成長株の運用経験が長く、23年で延べ5000社、5500人以上の社長に取材し、抜群の成績をあげる。2003年に独立し、現会社を創業、成長する日本株を組み入れる「ひふみ投信」を運用し、ファンドマネジャーとして高パフォーマンスをあげ続けている。この「ひふみ投信」はR&Iが選定するファンド大賞2012の「最優秀ファンド賞」を受賞した。著書に『日経平均を捨てて、この日本株を買いなさい。』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金よりも大切にしていること』(星海社新書)ほか多数。明治大学講師、東証アカデミーフェローも務める。
ひふみ投信:http://www.rheos.jp/ Twitterアカウント:twitter@fu4

藤野:どうしてそう思われるのでしょう?

田村:実は、私のことがハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディーで採り上げられたんです。「皮のスーツを来た政治家」なんて変なタイトルで(笑)。先生や生徒といろいろディスカッションをしたんですよね。
 それでハーバードの先生方と話をする機会を持ったのですがですが、あそこってリーダーや起業家になる人材を輩出したいという目標があり、それに沿ったカリキュラムが充実しています。ところが、現状、実際にハーバードを出た9割が起業家にならない。だいたいはマッキンゼーのようなコンサルティング会社に行ったり、投資銀行に行ってしまうんだそうです。

藤野:リーダーや起業家を養成するはずなのに?

田村:そうなんですよ、不思議でしょう? じゃあハーバードではどんな人が起業しているのかというと、中退している人のなかに、起業家として成功している人が目立つんです。

 たとえばフェイスブックのマーク・ザッカーバーグや、マイクロソフトのビル・ゲイツなんて、まさにそうで、ハーバードを卒業していない。つまり、本気で起業したいと考えている人は、何年も自分のやりたいことをガマンできない。「学部を卒業してMBAが取れるまで」なんて、とても待っていられない、ってことなんです。

藤野:確かに、早い段階からチャレンジを続けるほうが、自分が目指す場所にたどりつける確率が高くなる気がします。最近はキャリアを築くルールが変わってきたのかもしれないですね。

「まずは大企業」という会社選びは
もう古い?

田村:会社選びだってそうですよ。最近まで私は、起業を希望している若い人にアドバイスとして「学校を出たら、まずは大企業に入ったほうがいい」と話をしてきたんです。でも、いまの日本の大企業で身につけられることと、世界のエリートたちのやり方を比べてみると、大きな乖離があるように感じられることが多くなってきました。

 一方でテクノロジーの進歩は、組織の規模に関係なく、大きな仕事や革新的な仕事をつくりあげる可能性を生み出しつつあります。

 そう考えていくと、小さな会社のほうが、いろんな仕事を任されて早くから経験できるので、結果的にいい仕事ができるんじゃないかと思うんです。安易に「中小企業やベンチャー企業に行け」とは言い切れないんですが、コンパクトな組織での可能性に、いまは考え方が傾きつつあります。

藤野:確かに、ベンチャー企業という選択は悪くはありません。ただ、私が思うに大企業とベンチャー企業の中間くらいの選択もあると思います。具体的に言えば、東証一部になってまもなくの会社とか。従業員でいうと100名くらいの会社ですね。つまりベンチャー的な上場企業にいくということ。これはかなり良い選択肢だと思います。

 そういう会社は安定性もあるし、人を教える余裕もあります。組織が小さいから、社長が、社員の顔と名前をすべて知っていることも多いですよね。大企業の歯車でいるより成長スピードも早い。面白いことができそうな気がします。

 ですから若い人に言いたいのは、有名かどうかとか、会社の規模で選ぶのではなくて、自分が「早い時期に」成長できるかどうか、という視点で考えてもいいんじゃないかと思うんです。