なぜDXには人材育成が必須なのか
低迷の背景には、日本でDXを担う人材が不足し、育成が追いついていないことが挙げられる。
いわゆる「DXレポート」で経済産業省が警鐘を鳴らした2018年以降、日本企業のDXは着実に進展している。IPAの「DX動向2024」によると、DX取り組み企業の割合は2021年度の55.8%から2023年度には73.7%まで増加。成果を出している企業も58%から64.3%に伸びた。米国企業の成果(89%)には及ばないものの、全社戦略に基づくDXへの取り組みは37.5%と、2022年度の米国(35.5%)を上回る水準に達している。
だが、いち早くDXに着手した大企業をはじめ、多くの企業は当初、DXを技術的課題と捉え、本来主役であるはずの「デジタルを活用してビジネスを変革する人たち」の育成にまで踏み込めていなかった。重要性は理解しつつも、コロナ禍も相まって本格化できなかった企業もあるだろう。企業のみならず、2018~2020年にかけての公的なレポートに人材育成にフォーカスした内容があまり見られないことからも、この頃の空気感が読み取れる。
同じく「DX動向2024」では、「DXに取り組む予定はない」「DXに取り組むか分からない」と回答した企業に、その理由を尋ねている。予算やタイミングの問題よりも「DXに取り組むための知識や情報が不足している」「DXの戦略立案や統括を行う人材が不足している」を挙げる企業が圧倒的に多い。特に中堅・中小企業は、最近になってDXに取り組み始め、その過程で深刻な人材不足に気づくケースが増えているという。DXを進める上での障壁は、ダントツで人材不足というのが日本の現状だ。
DX成功の鍵を握る人材「ビジネスアーキテクト」とは?
IPAは、DX推進を人材のスキル面から支援するため、個人の学習や企業の人材育成・確保の指針となる「デジタルスキル標準(DSS)」を策定し、DX推進に必要な人材を5つの類型で示している。
ビジネスアーキテクトは、経営戦略とデジタル技術を結びつける重要な役割を担う。実現したいこと(=目的)を設定した上で、事業戦略の立案からデジタル技術の実装まで、DX全体を統括する。データサイエンティストは、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う。ソフトウェアエンジニアは、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムの構築・運用を担当し、DXの技術基盤を支える。サイバーセキュリティスペシャリストは、デジタル化に伴うセキュリティリスクに対応。デザイナーは、顧客視点でのサービス設計を行う。
中でも、ビジネスアーキテクトの存在がDX成功の鍵を握るという。DXを推進する人材というと、データやデジタル技術の専門家を想起しがちだが、真に求められるのは、デジタル技術を駆使してビジネス変革を実現できる人材だ。多くの企業でDXが停滞する原因は、事業戦略とデジタル技術の統合が不十分なことにある。ビジネスアーキテクトは、経営とデジタルの両方を理解し、デジタルを活用した新たなビジネスを設計。その実現に向けて一貫した取り組みを推進する存在として、DXの成否を左右すると言っても過言ではない。