5つの人材類型をつなぐと星になることから、IPAはこれを「スターコンセプト」と呼んでいる。どの人材も単独では十分な成果を出せない。例えば、ビジネスアーキテクトの描いた戦略を、データサイエンティストがデータで裏付け、デザイナーが顧客視点で具体化し、ソフトウェアエンジニアが実装する。デザイナーが主導する局面もあれば、データサイエンティストが中心となる場面もある。

 従来型の縦型組織図では上下関係が強調されがちだが、DXの成功には異なる専門性を持つ人材が場面に応じてリーダーシップを発揮し、水平的に協働することが重要だ。星形にすることで、「ビジネスアーキテクトが一番偉くて、それ以外の人はビジネスアーキテクトの指示に沿ってやればいい」と理解されることを避けたかったという。

デジタル人材を育成する4つのフェーズ

 IPAは2023年、DX成功企業へのヒアリングを通し、これまで暗黙知とされてきた人材育成のノウハウを「デジタル人材育成モデル」としてまとめた。今後もアップデートしていく方針だという。

 デジタル人材育成モデルは4段階で構成される。まず、リーダーが危機感を持ち、DXの必要性を認識する「火付け」からすべては始まる。次に、変革を主導するビジネスアーキテクトを確保する。このビジネスアーキテクトを中心に、実践の場で知識とスキルを習得するコアメンバーを選定・育成していく。さらに、取り組みの範囲を徐々に広げ、組織全体の成長につなげていく。このプロセスを加速させるには、他社との連携による経営者の意識改革や、外部からの育成支援も有効だ。

IPA「デジタル人材育成モデル~DXを推進する企業におけるデジタル人材確保・育成の全体像とそのステップ~」より引用IPA「デジタル人材育成モデル~DXを推進する企業におけるデジタル人材確保・育成の全体像とそのステップ~」より引用 拡大画像表示

【1. リーダーの火付け】

 DXは経営者の理解が不可欠だ。中小企業では特に、リーダーが変革の必要性に気付くことが出発点となるケースが多い。

 ただ、そもそも経営者がDXに関心がない場合もある。ここで苦労しているDX担当者や潜在的推進者は多い。この場合、メディアや社外コミュニティなどで得られる競合他社の情報を地道に耳に入れていくのが一手だ。

 加えて、IPAでは「DX推進指標」による課題の可視化を推奨している。これはいわばDXの健康診断のようなもので、自社の遅れ具合を客観的に把握できる。業界平均との比較も可能で、大きく下回っている場合、それが変革への動機付けとなることも期待できるという。

【2. 推進者の確保(ビジネスアーキテクト) 】

 火が付いたら――経営者はまず、DXで実現したいことを明確にした上で、ビジネスアーキテクトとなる推進者を指名する。

 推進者には、業務全体と課題を把握する力、デジタルスキルを有する人材が望ましい。加えて、主体性やリーダーシップ、マネジメント力、コラボレーション力、創造的な問題解決能力といったパーソナルスキルが試される場面も。激レア人材だが、一人ですべてを担う必要はなく、チームで補完し合う企業も多い。経営者自身が兼務したり、プロCIOのように経験豊富な外部人材が加わることで軌道に乗ったケースも見られる。

 アサイン後は「丸投げ」を避け、経営者自身も積極的に関与して推進者の成長を支援する。その上で、十分な権限と裁量を与え、失敗を許容することで、推進者の試行錯誤は促進される。