次の図では、1つのニューロンが別の1つのニューロンとつながっています。

神経細胞(ニューロン)同書より転載 拡大画像表示

 これが実際の脳では、哺乳類の場合、1つのニューロンが、数千~数万の別のニューロンとつながっているのです。約1000億個のニューロンがそれぞれ数千~数万の別のニューロンとネットワークを形成しています。ネットワークの様子を思い描けますか?

 パソコンで言うところの頭脳はCPUという計算装置ですが、シングルタスクで情報を順番に処理していくことしかできません。しかし、脳は膨大な情報をマルチに処理できます。あなたの脳ではこの極めて複雑なネットワークが、混乱することなく高精度で機能しているわけです。

記憶の中枢は
海馬に隠されている

 人間の脳の重さは、どれくらいか知っていますか?

 個人差はありますが、成人男性だと平均して、約1300~1400グラム、成人女性だと平均して、約1200~1300グラムといわれています。脳の重さと知能は関係ありません。

 この脳の中で、いちばん大きな部分を占めるのが大脳です。

 大脳は生物が進化する過程で最も遅く現れた部位であり、高度な進化を遂げた動物ほど脳における割合が大きくなるという特質があります。大脳は記憶、認知、思考、感覚の処理など複雑な働きをしています。

 そして、脳の表面に広がるしわしわの部分が大脳皮質です。厚さが2~4センチメートルほどあり、約140億個のニューロンが集中していて、思考や判断を司ります。

 何かを記憶するとき、脳では1つの記憶に対し、1つのニューロン集団が割り当てられると考えられています。これを「セル・アセンブリ仮説」といいます。セル(cell)は細胞、アセンブリ(assembly)は特定の目的のための集まりを意味します。

 仮に、A~Iの9個のニューロンがあったとしましょう。ごくごく単純化していうと、赤色を記憶するときにはこのうちのAEGが一緒に活動します。その後、赤色を思い出すときには、再びAEGが一緒に活動します。AEGが一緒に活動すること=赤色を思い出すこと、なのです。

 最初に赤色を記憶したときに活動するニューロン集団は、脳の「海馬」というところにあります。

 記憶の中枢は、この海馬という脳の中心部に隠されています。海馬は人間の場合なら大きさは親指の先くらいで、思考や判断といった高次な機能を司る大脳皮質と比べると、圧倒的に小さな部位です。全体の形がタツノオトシゴの尾に似ているため、タツノオトシゴの別称である海馬とよばれているという説があります。