回答のポイント:長期的な経営環境の変化を見据え、企業変革の方向性を明らかにする
大手デベロッパーの既存事業を整理したうえで、事業に大きな影響を与えうる環境変化を想像し、30年後も発展し続けるための企業変革の方向性を具体化しましょう。
以下が解答例です。
大手デベロッパーの既存事業の特徴を整理する
大手デベロッパーの既存事業を建物の用途別に整理すると、①オフィス、②商業施設、③住宅の3つが代表的な領域と整理できます。また、スタートアップ支援、物流施設などの④その他事業も出てきています。
また、収益化の方法は、建物のストックを保有し賃料を得る賃貸事業と、建物を売却して収入を得る分譲事業に分類できます。
上記の分類に対し、大手デベロッパーの主力の事業領域は、「オフィス・商業施設の賃貸事業」と「住宅の分譲事業」だと整理できます。

今回は、賃貸事業の中でも売上や収益率が高く、大手デベロッパーの主要事業であるオフィス賃貸事業と、分譲事業の柱となる住宅分譲事業に注目して将来戦略を検討します。
30年後の事業に大きな影響を及ぼす環境変化を特定する
戦略の立案に際して、30年後におけるデベロッパー事業の経営環境の変化について整理します。
まず、社会の変化として、人口減少や今以上の高齢化社会到来に伴う労働人口の減少から、オフィス全体の需要は減少することが想定されます。
また、技術面では、VRやメタバースなどの技術の発展に伴い、場所の制約が取り払われた社会が実現することで、自宅やサードプレイスでの勤務が増加し、こちらによってもオフィスへの出社率が減少すると想定されます。
さらには、AIやロボット技術が発展し、一部の仕事を代替するようになることで、高付加価値を生み出すホワイトワーカーの割合が増え、オフィスに求められる機能は高度化していくと考えられます。
これらの内容を踏まえると、大手デベロッパーの主要事業における「オフィス」と「住宅」について次のような環境変化が生じると考えます。

環境変化への対応に不可欠な要素を考え、将来戦略を立案する
先の整理を踏まえると、
・オフィス需要の変化に対応し、オフィス供給を最適化しながら高付加価値のオフィスを提供すること
・住宅の用途が多角化するなかで、時代に即した住宅を提供すること
が大手デベロッパーの成長には不可欠と考えます。
また、オフィスは賃貸事業によるストックビジネス(契約によって継続的に収入を得られるビジネスモデル)、住宅は分譲事業によるフロービジネス(売り切り型のビジネスモデル)であることから、オフィス事業の減少に合わせて既存のオフィスストックを住宅などに用途変更し、最適な売り切りを目指す事業最適化の戦略を取ることが有効と考えられます。
したがって、複雑かつ急速に変化する環境に適応しながら成長していくために、時代を正しく捉えて順応的に戦略を変更する専門組織として「デベロッパーシンクタンク」を経営陣の直下に据え、経済動向や時代の変化に準じた需給ギャップやニーズの変化を把握することを提案します。
自社に最適な事業環境の分析を、経営に近い立場の組織として内製化し、中期計画よりも細かい粒度で経営方針・事業方針に反映できる企業体制を確立することが、30年後の不動産業界を見据えたときの大手デベロッパーの将来戦略として有効と考えます。
以上となります。ありがとうございました。
面接官からの質問に答える
──今回のケースでは、賃貸事業について、なぜ商業施設の領域ではなくオフィスに注目したのでしょうか?
主要事業の中で、より変化が求められる領域と考えたからです。商業施設は日常的に利用するtoC(個人向け)ビジネスのため、デベロッパーのEC参入やIoT技術を活用した販促・省人化の取り組みなど、時代の変化に即した施策やビジネスモデルの変化が既に盛んな印象です。一方、toB(法人向け)のオフィス事業は、契約期間も長く世間のトレンドの影響を受けにくいため、30年後という長期的な観点で能動的に将来戦略を考え実行する姿勢が商業施設以上に重要になると考え、そちらの領域を選定しました。
──事業を取り巻く環境変化についてはコンサルタントなどの外部パートナーの方が詳しい可能性もある中で、なぜシンクタンク機能を内製化するのでしょうか?
「時代に即して常に変わり続けること」を実現するためには、内製化が必要と考えたからです。大手デベロッパーのような歴史と伝統のある会社では、経営陣も自社の現場で経験を積んできた新卒入社の人材であることが多く、外部パートナーの意見に耳を傾けることはあっても、最終的な意思決定では内部の視点を重視する傾向にあると考えます。そのため、経営に近い立場で同様の機能を持つ内部組織を立ち上げることが有効と考えました。
──今回の提案以外の戦略として、他に何か考えられますか?
物流施設などの「その他事業」の中で30年後に必要な要素を考え、事業領域を強化する提案も検討できそうですが、時代に沿って変化できる体制の構築がより根本的な課題と考えます。
(本稿は『問題解決力を高める 外資系コンサルの入社試験』から一部を抜粋・編集したものです)