沖縄の新テーマパーク「ジャングリア沖縄」の概要発表、そして4年ぶりの著書『確率思考の戦略論 どうすれば売上は増えるのか』(森岡毅 今西聖貴/ダイヤモンド社)の刊行と話題が続く森岡毅氏(株式会社 刀 代表取締役CEO)。2月は「イマーシブ・フォート東京」の第二期戦略の発表で注目を集めた。2024年3月に開業し、大きな反響を呼んだまったく新しい形態のテーマパーク「イマーシブ・フォート東京」。第二期はどんな進化を見せてくれるのか?(取材・亀井史夫/ダイヤモンド社)
![森岡毅の想定を超えた!? イマーシブ・フォート東京での観客の意外な反応とは?](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/f/6/750/img_af25de5b32d29a0bf52c49b50d55e988302284.jpg)
ライバルはスマホだった!
「イマーシブシアター」とは、2000年代にロンドンから始まり、その後ニューヨークなどで注目を集めている体験型演劇である。観客はただ見ているだけではない。見る場所によって見える物語が違ってくる。時には物語そのものに飲み込まれる。何度見ても同じ体験はない。まったく新しい形のエンターテイメントである。
その動向に森岡氏と刀のクリエイティブメンバーは早い段階から着目し、在職当時のUSJや西武園ゆうえんちのアトラクションに導入していた。西武園ゆうえんちの「没入型ドラマティック・レストラン 豪華列車はミステリーを乗せて」は予約を取るのに苦労するほどの人気で、日本でも「イマーシブ」は確実にファンを増やしている。
その集大成ともいうべき「イマーシブ・フォート東京」は、いくつものイマーシブなアトラクションが楽しめるテーマパークとして昨年開業した。
「ライブエンターテイメントをいかにアップデートできるかという大きな挑戦です。ライブエンターテイメントは古代ギリシャの時代から長い歴史があるわけですが、ここ20年ほどで大きなライバルが登場した。それはスマホです。いつでもどこでも、人はあの小さな箱でエンターテイメントが楽しめるようになった。それに対抗する形で、ライブエンターテイメントも進化していかなくてはならない。デジタルの世界では味わえない、ライブならではの素晴らしさをもっと凝縮して追求しなくてはならない。イマーシブは目の前で起こっていることを観客として見るのではなく、当事者として巻き込まれる体験です。これはスマホでは不可能です。従来のテーマパークでも無理。一人一人の体験の価値が毎回違う、まったく新しいエンターテイメントなのです」(森岡氏)
ライト<ディープ
まったく新しいものが受け入れられるには、ある程度の時間がかかるはずだと森岡氏は想定していた。しかし若者を中心に、世の中はビビッドに反応した。いきなり「イマーシブ」という言葉がトレンド入りしたほどだった。
名探偵シャーロック・ホームズの物語をベースにした「ザ・シャーロック ~ベイカー街連続殺人事件」は、1年間で15万人を動員したという。映画のように全国の劇場で同時公開される演目ならいざしらず、「イマーシブ・フォート東京」のみの公演でこれだけの人数を動員するのは驚異的である。
江戸遊郭の独特の世界観を再現した「江戸花魁奇譚(えどおいらんきたん)」は、14800円の高額にもかかわらずチケット完売率97%を記録した。人気コミックがベースの「東京リベンジャーズ イマーシブ・エスケープ」は、顧客満足度99%をたたき出すなど圧倒的な人気となっている。
「やってみてわかったことがあります。従来のビジネスモデルについては、私たちは予測がきくほうだと思っていた。だいたいのことは想定通りだったけれど、想定が外れたこともあったのです。まったく新しいものからは、多くの学びがあるということです。我々はライトな体験からディープな体験まで、段階を追っていくつもの演目を用意していました。ディープなイマーシブ体験というのは、みんなが理解するようになるまでにはある程度時間がかかるだろうと思っていたからです。ところがふたを開けてみると、ライトな体験よりディープな体験のほうに人気が集まった。7割以上の人がディープな体験に集まったのです。これには驚きました。であれば、これを加速していこう。よりリッチに、より濃密に。それが第二期の方針です」(森岡氏)
ライトな体験よりもディープな体験に客は集まった。これは稀代のマーケターである森岡氏にとっても想定外のことだった。その学びをもとに、第二期の「イマーシブ・フォート東京」は進化する。
「ザ・シャーロック」は、二幕制の「ザ・シャーロック ジェームズ・モリアーティの逆襲」として生まれ変わる。これまでの物語を序章とし、ゲストは事件に巻き込まれ没入した状態で二幕へ突入。連続殺人事件の裏側が明かされ、さらに深い没入体験を楽しめる。
新たに始まる最上級体験「真夜中の晩餐会 Secret of Gilbert’s Castle」は、19世紀のヨーロッパ貴族の晩餐会がモチーフ。優雅な邸宅で実際にコースディナーを味わいながら物語に巻き込まれるという、非日常的で豪華な体験が楽しめる。
そのほか、「江戸花魁奇譚」は、これまでの濃密で官能的な体験はそのままに、さらなる結末が追加されたマルチエンディングとなり新しい余韻をもたらす。「東京リベンジャーズ イマーシブ・エスケープ」もアップグレードし、キャラクターと少人数で接する個別体験を3倍に増やす。
より濃く、より深く、作品の世界に没入できる体験となりそうだ。