在日中国人が「日本での病院受診体験」を発信
こうした声を受けて、一部の在日中国人が「日本での受診体験談」を発信している。
現在YouTubeの登録者174万人を有する中国人ジャーナリスト王志安氏(参考記事)は、スーさんを追悼する動画で自身の経験を語った。昨年、風邪をこじらせて、入院に至ったのだ。
「日本は段階的な診療システムがある。まず地域の小規模なクリニックで診察を受けなければならない。そこで治療ができないと判断されれば、医師の紹介状を持って初めて大病院を受診できる」と解説。
「風邪の初期段階では、受診したクリニックで血液検査や抗生物質投与は一切なく、自己免疫力での回復を待つ方針だった。しかし症状が改善せず悪化したため、やむを得ず順天堂大学付属病院を受診したところ、即座に入院となり抗生物質を処方された。最初から抗生物質をもらっていれば、入院せずに済んだかもしれない。日本の医師は抗生物質使用に対し非常に慎重だと感じた」とも述べていた。
また、別の中国人ネットユーザーも似たような体験を紹介した。「地域の病院(のレベル)は運次第だ。地域の病院でもらった薬が効かず、最終的に肺の中に水が溜まって心筋炎になり、ICUに2週間も入る羽目になった」
他にも「日本では患者のカルテが病院にあり、請求しないと手に入れられない。別の病院に行ったときに病状を正確に伝えるのが難しい」といった声も挙がっていた。
日中の医療現場の違い
筆者は、仕事の関係で日本と中国の医療両方に関わることが多い。確かに、医療現場において日本と中国ではいろいろな違いがあることを実感している。
例えば、王志安氏などが指摘している「日本では抗生物質をあまり使用しない」という点。確かに中国の病院では、高熱が出ると「点滴または抗生物質の投与」という対応をすることが多い。日本の病院では抗生物質をあまり投与しないことについて、医療法人社団悠翔会の佐々木淳理事長は次のように解説する。
「日本では一般的に、風邪に対しては対症療法のみで経過観察する。抗生物質は病原菌(一般細菌)に対しては効果を発揮するが、ウイルスに対しては無効だ。風邪のウイルスを治癒する唯一の方法は、そのウイルスに対する抗体を自分自身の免疫力で作ること。心臓や肺などに重大な基礎疾患がない限りは、いきなり細菌性肺炎を起こすことは考えにくい。必要のない患者さんにまで抗生物質を投与すると、耐性菌の発生という新たなリスクが生まれる。実際、ここ数十年、人類は耐性菌との戦いを重ねてきている。より強い薬を開発すると、より強い耐性を身に着けた細菌が生まれる。処方せんがなくても抗生物質が購入できる途上国などでは、耐性菌の拡大が深刻な問題になっている。だから、日本を含め多くの先進国では、抗生物質の不適切処方(たとえば風邪に対する抗生物質の処方など)が監視され、制度によっても制限されている」(佐々木氏)