弁護士自ら
「悪手」を認める発言
「この書簡の書き方は確かにpoorly worded(言葉足らず)だった」
この一言は衝撃的だった。自分のチームの悪手を認める発言だったからだ。
書簡の表現が言葉足らずで判事に突っ込まれると分かっていたならば、なぜ弁護士であるあなたが、水原被告が書いた書簡をチェックして矛盾点を正してから提出しなかったのかと、筆者は思わずフリードマン氏に聞きたくなってしまった。
かつて検察官だったフリードマン氏は、当然、検察側や判事が疑問に思って調査し、突っ込んでくる点を熟知していたはずなのに。
さらにホルコム判事は違う角度からも質問を繰り出した。
「ミスター水原が日本の球団でアメリカ人選手の生活の世話を仕事として担当していた時も、かなり多忙だったことは日本でプレーしていたアメリカ人選手から聞いている。しかし、ミスター水原は当時は心身のストレスを特に訴えていなかった。ではなぜ、アメリカでミスター大谷の生活の世話をしているときにだけ、特別大きなストレスがかかっていたのか?」
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フリードマン氏の論理のほころびを着々と突いてくるホルコム判事の手腕が鮮やかだった。
60代前半のホルコム判事は、米国海軍の軍人だった若い頃に、軍の奨学金を得てマサチューセッツ工科大学に進学し、エンジニアリングの学位を取得している。
その後、ハーバード大学のロースクールとビジネススクールを卒業後、長らく弁護士として知的財産や破産法などの分野で活躍してきた。
高卒で軍人として戦艦に乗って働いた経験がある裁判官はそう多くはない。つまり多彩な人生経験があり、かつ、エンジニアリングを専攻するほど「論理的」な思考が得意で、徹底的に事実を確かめる質問をていねいに繰り出す人物であることは明らかだ。
ホルコム判事は検察側の主張を聞いた後、再びフリードマン弁護士に「言い足りないことがあれば、どうぞ」と最後に挽回するチャンスを与えた。
そこでフリードマン氏はこともあろうにこう言ってしまった。
「この裁判所にやってくる被告の誰もが、Uniqueな状況を抱えている」
それを聞いた法廷中の全員が思ったはずだ。「え?誰もが『Unique』な状況ならば、水原被告が特別なワケではないのでは?」と。
フリードマン氏は、最初に展開していた持論を、なぜか自ら破綻させてしまっていた。
全ての答弁を聞き終わったあと、ホルコム判事は静かにこう言った。