名刺交換の場面で、せっかくのチャンスを逃しているビジネスパーソンは多い。話題の書籍『対話するプレゼン』の著者、岩下宏一は、「何気ない名刺交換の場面でも、会話を広げたり信頼関係を築くことができます」と言います。本記事では、プレゼンの場を「一方的に説明する場」から「対話の場」に変えることを提案した『対話するプレゼン』より、本文の一部を抜粋・加筆・再編集してお届けします。

名刺交換で、三流はそのまま名刺入れにしまい、二流は相手の目を見て名刺を両手で受け取る。では一流は?Photo: Adobe Stock

名刺交換で「仕事ができる人」と「印象が悪い人」の決定的な違い

 名刺交換の際には、相手の名前の読み方を声に出して確認するようにしましょう

 プレゼンに初対面の方が参加する場合には、これを行いましょう。なお、プレゼンに先立ってヒアリングの機会がある場合には、その時に行います。

 名刺交換の際、相手が名乗る名前は苗字だけであることが多いものです。そのため、相手のフルネームをしっかり確認することが大切です。名刺を受け取ったら、苗字だけでなく下の名前もお聞きするようにしましょう。これが、より丁寧で良好なコミュニケーションの第一歩となります。

名刺交換で相手の名前の読み方を確認する

「たかはし、もえみさん、とお読みすれば良いのでしょうか。あ、めぐみさん、ですか。確認して良かったです。承知しました」
「えんどう、だいすけさん、ですね。元プロ野球選手の松坂大輔さんと同じ字ですね」
「はい、父親が野球好きで」
「そうなんですね!」

 また、私自身が経験したエピソードをご紹介します。名刺交換の際、こんなやり取りがありました。

「〇〇さんですか。珍しい苗字ですね、小説家にも同じ名前の方がいますよね」
「はい、実は彼女とは同級生で、ペンネームを私の苗字からとったんです!」
「ほんとですか!」

 名刺交換をきっかけに、このような予期せぬ話題で盛り上がることもあるのです。

「名刺交換=儀礼」で終わらせる人が失っている大切なものとは?

 このように、名刺をきっかけにちょっとした会話を挟むことで、自然と相手と打ち解けることができます。

 名刺交換は形式的な儀礼として行われることが多く、あまり相手の「個」にフォーカスされません。しかし、対話はその場にいる一人ひとりとの関係を築くものです。名刺交換の際には、しっかりとあいさつを交わし、相手との接点を大切にしましょう。

 ちなみに、私が名刺をきっかけに会話を広げるようになったのは、独立してからのことです。

 自営業として駆け出しの頃、私は名刺に「プレゼンアドバイザー」や「伝わるをお手伝い」といったオリジナルの肩書きを添え、少しでも相手の記憶に残ろうと必死でした。

 しかし、何度も経験したのは、名刺をよく見られることもなく、そのまま名刺入れにしまわれてしまうという現実でした。そのたびに、なんとも言えない寂しさを感じたものです。

 その時、改めて思ったのは、仕事を一緒にするのは目の前の「個人」だということ。だからこそ、少なくとも自分は相手の名刺に書かれた内容を隅々まで目を通し、その人をしっかりと受けとめよう──そう感じて、名刺を起点にした対話を意識するようになったのです。