勝’s Insight:企業独自の世界観を生み出すための
第一歩は、「誰と」作るか

辻さんとの対話を通じて最も印象に残ったのは、「世界観」という言葉だった。辻さんは、「単に便利なものを作る企業と、独自の世界観を基にしてものを作る企業とでは、世の中に及ぼすインパクトに大きな差が生まれるはず」。そして、「その世界観をつくるのは、まさにデザインの役割」なのだと語る。
世界観とそれをつくるデザインの働きは、プロダクトにも、企業の姿勢そのものにも関わる。私なりにそれを整理すると、以下のようになる。
辻さんは朝会で話す内容を、CDOの伊藤セルジオ大輔さんと対話しながら決めている。その対話によって経営トップである辻さんの頭の中が整理され、脳内にあったものが言語化されてメッセージとなる。経営トップからのメッセージが社員に明確に伝われば、思考や行動の変容がもたらされる。その変容の結果として醸成されるのが、企業文化だ。
企業文化の醸成において、セルジオさんは、辻さんが思い描くビジョンの「本質」を抽出して整えるという、重要な役割を担っている。私は以前から、「デザインの力とは、本質を引き出し、メッセージを研ぎ澄まし、それを美しく分かりやすく表現することである」と考えてきた。その点で、まさにセルジオさんは、デザイナーとしての力を十分に発揮していると思う。
一方、プロダクトに関して辻さんは、「エモーショナルバリュー」を高めていきたいと言う。それもまさにプロダクトの世界観をつくっていく取り組みであり、別の言葉で言えばブランディングということになる。
一般にブランディングとは、キャッチーなネーミングや、かっこいいロゴや、印象的なビジュアルをつくることだと考えられている。しかしブランディングの本質は、顧客や社会のパーセプション、すなわち認知・認識を形成することである。では、「何を」認知・認識してもらうのか。
それは、その企業にしかない独自の世界観を、である。
辻さんは、社員とのコミュニケーションおよびプロダクトを通じて、マネーフォワードという会社の世界観をつくり、それを文化とし、ブランドとすることにチャレンジしている。そのチャレンジを力強く支援するのがCDOの役割の一つだといえる。
(第6回に続く)