「裏SAPIX」という独自の情報網

 私立受験はよく「情報戦」と言われるが、中国人の団結力は桁違いだ。日本人の全くあずかり知らないところで独自の情報網を発達させている。実は、SAPIXに子供を通わせる中国人は前出のWeChatグループで「裏SAPIX」とも言えるようなシステムを構築しているのだ。

 もともとは学年ごとに、情報交換のためのWeChatグループが数多く存在してきた。しかし数年前に、広い人脈を持つ中国人保護者がリーダーとなってこれらを統一。これによって先輩から後輩へと情報を継承することが可能となった。「裏SAPIX」グループの巨大化に伴い、内部でも競争が熾烈になってきた。「親同士でも、子供同士でも階級ができちゃいます」と、黄氏。成績以外にも、収入など社会的条件で誰が上で誰が下かという意識が生まれるそうだ。

 本物のSAPIXと同じように、子供の偏差値に応じていくつかの小グループに分けられている。例えば、黄氏は上から2番目に当たる「偏差値55〜60」のグループに所属していた。そして、これも本物のSAPIXと同じように、テストの結果に応じて定期的にメンバーの入れ替えがあるのだ。

 その小グループでは、SAPIXの宿題に加えて、当番の親が毎日交代で子供向けに算数の問題を出すことが義務付けられていた。子供の解答を写真で撮ってメンバー同士で答え合わせをするのだが、「問題を3回やらなかったり、提出が遅れたりすると、その親がグループから追放になります」という厳しさだ。

 さらに年に数回、Zoomで中国人保護者の先輩が自分の経験やノウハウをシェアする仕組みもあった。どんな苦労があったのか、どのように毎日を過ごしていたのか、どの先生がいいのか、一番効率がいい勉強法はどういうものか、ひいては過去問や志望校の内情まで、ありとあらゆる情報がシェアされる。

 先輩後輩間の私的なやり取りも盛んで、日本人より圧倒的に縦のつながりが強い。会費をとって特別なセミナーをする保護者もいるそうだ。中国で過熱する受験競争が日本へ伝播してきた側面もあると言える。

 実際、中国系の生徒が増えているのかを学校に尋ねると、男子御三家の筆頭である開成学園からは「中国を含む海外にルーツを持っている生徒が増えている感覚はあり、全体の5〜10%程度と考えております」との回答があった。麻布学園からは「学外の相談会に参加した印象では、昨年(編注:2023年)ぐらいは中国系の方が多くいらっしゃったように思う」とのコメントがあった。