なぜ日本に住む中国人の子どもが中学受験に殺到?

 在留中国人の子女が中学受験に殺到する背景としては、1990年代以降に増加した中国人留学生が家族を形成し、その子供が受験期に入ってきたことが挙げられる。

 1990年代末に来日した黄氏もその1人だ。出身は、日本と歴史的な結びつきの強い東北地方のある省。同じく日本に留学に来ていた中国人男性と結婚した。

 黄氏には苦い記憶がある。いまは高校生になっている長男が小学校時代に受けたSAPIXの入塾試験に不合格だったのだ。小学校高学年ともなると入塾テストの難易度が上がり、SAPIXには入りにくいということを知らなかったためだった。そのため長女には小学1年から公文に通わせたうえで、小学4年から小学6年にかけてSAPIXに通わせることに成功。それだけにとどまらず、小学5年で個別指導、小学6年で受験Dr.(編注:東京近郊や京都にある、個別指導塾)を利用するなど、全部で600万円を「課金」するほどの熱の入れようだった。おかげで2023年春、いま人気が急上昇している神奈川の私立中高一貫校に無事合格した。

 黄氏には、息子と娘を連れて中国に帰国していた時期もあった。しかし、中国の教育環境についていけず、3年ほどで日本に戻ることにした。「中国では学校の内部に人脈がないと、何事もうまくいかないんです。つねにアンテナを張って注意しておかないと、詐欺にあったり、人間関係で思わぬミスを犯したりします」 中国の厳しいコロナ対策を日本から眺めていて、ますます中国での子育てはありえないと考えるようになった。

やるからにはトップを目指す、御三家受験は当たり前

 黄氏のような発想は決して例外的ではない。そして、日本で育てるからには、そのなかでトップを目指すのが中国人だ。男子であれば、SAPIX経由で筑波大学附属駒場、開成、麻布、女子であれば、桜蔭、豊島岡、女子学院、雙葉といった名門校を目指すことがもはや当たり前になっている。
 黄氏は、SAPIXのなかでも吉祥寺校、王子校、お茶の水校、東京校、武蔵小杉校などには中国人の生徒が多いと話す。

 小学1年の子供を東京都心のSAPIXに通わせる別の中国人ママは「校舎全体の中国人比率は15%ほど」と証言。さらに、東京北部のSAPIX校舎に勤める教師は「年によっても変わりますが、(中国にルーツを持つ生徒の)比率は25%くらいです」と認める。