「はい?私は県警から委託を受けて電話をしているだけなので、詳しくは警察にお尋ねください。えっと…あの、どこまで読んだか分からなくなりましたので、もう一度最初からお話ししますと…」

 こんな大事な電話すら、警察は外注に頼むのか。そりゃあ、だんだん話も聞かなくなるだろう。市内にたくさんの銀行や郵便局があれば、限られた人数で町を守っている警察組織としては仕方がないのかも知れない。しかしこれでは、警察が電話したかのように説き伏せる「詐欺」みたいなもの。ちゃんと警察から委託を受けていることを、はじめに伝えるべきである。

「だーかーらー、ジョンなんていないんだよ!あなたね、騙されてんの。分かる?ロマンス詐欺なの!お金、持ってかれちゃうんだよ!」

書影『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)
目黒冬弥 著

 私の連絡を受け、3人の制服姿の巡査が応接室にやってきた。この女性から暴力を受けたわけではなかったが、長時間に渡り送金しなさいと一点張りで口調もヒステリックになってきたため、これ以上の説得は難しいと判断し、110番通報したのだ。

 彼らは、シリアに駐留し弟が末期がんの米兵へ450万円を送金したい40代女性に、荒っぽい声で説得を始める。これで私はお役御免だ。

 後日「男性兵士を名乗る手口は数年前から流行っている」と警察から聞いた。いずれにしても心の隙間を狙った詐欺は減らないし、手口はますます巧妙でドラマチックになっている。何故そんなに簡単な手口に引っかかったのだろうと不思議に思うのだが、騙された本人は至って真面目だ。

 戦場にいる恋人はバカンスで日本に来たりはしない。それだけは確かだ。一度、落ち着いて話を聞いてほしい。大事に貯めたお金を大切にしてもらいたいものだ。

 この銀行に勤め、四半世紀が過ぎた。かつてはレアケースだった詐欺が、今では当たり前のように起きている。私は今日もこの銀行に感謝しながら、一日を懸命に勤務している。

(現役行員 目黒冬弥)