スズキの軽とは何か?

F:スズキの軽とは何か?言葉にできますか?

鈴:僕らの中で、いろんな切り口がありますが、やはり「軽い」という事になると思います。軽いのが本当にスズキの軽だよねって言えると僕は思います。では、お客様から見て軽くするデメリットは何か?例えばドアの締まり音がペシャッと安っぽいとか。じゃあ音を良くするために重いドアを付けるのかと。僕らは絶対にそちらの方向へは行かなくて。

F:薄くて軽いドアでも、ゴム製のウェザーストリップを太くするとか、防振材を入れまくるとか……。

鈴:いや、これがまたものすごく難しい。どのように攻めても、絶対に合格点は出ない。

F:出ない。合格点が出ない。

鈴:出ない。でも目指し続ける。何をやっても物理的な重さに勝てないとこはいっぱいあります。NVH※にしても、とにかく重い方が圧倒的に有利です。重ければ振動が伝わりにくくなるし、そもそもの振幅も小さくなる。それでも軽くしたい。軽く造ろうとすると、NVH対策は、もう永遠のテーマです。僕ら、もの凄く課題だらけ、制約だらけの中でクルマを造るんです。今回のスペーシアもかなり軽いので、設計陣は相当苦労しています。

F:具体的にはどうやって?

鈴:形を工夫しています。同じ金属の薄さでも、形を変えれば周波数が変わりますから。例えばこのルーフ。実は丸いんですよ。よく見ると屋根が丸くなっている。丸く張りがあって、それで共振周波数をコントロールしています。

 それとバックドア。ボディの周波数とズラして付けている。周波数がピタッと揃ってしまうと、バックドアとボディが共振してしまう。それで走ると、「ボー」っという音が車内に入ってしまうんです。もちろん振動しない重さのドアを付ければ簡単に解決しますが、僕らは絶対にそうしない。計算して、試作して、実験して。また計算して。

※NVH…騒音(ノイズ=N)、細かい振動(バイブレーション=V)、でこぼこな道路を通過したときの振動や衝撃音(ハーシュネス=H)の略で、クルマの快適性や静粛性などを指す。