持ち合い株や親子上場の解消が拍車
企業支配権が売買される時代に

 そんな議論を経て経済産業省が23年8月にまとめたのが「企業買収における行動指針」だ。

 合理的な条件や対価などを示す「真摯な買収提案」を受けた取締役会は、買収の是非を真摯に検討しなければならない。それが企業価値を高め、市場の活性化につながるからだ。

 指針に連動する形で東京証券取引所の市場改革が進み、上場廃止を選ぶ企業が24年に過去最多の94件を記録した。株式の持ち合い解消が進み、議決権を行使する機関投資家も株価パフォーマンスに劣る経営者に反対票を投じる時代に変わった。

 みずほ信託銀行コンサルティング部の八木啓至副部長は「東証の株式マーケットは、上場する企業の支配権そのものが取引される市場に変容しつつある。これまで考えられなかったような市場のゲームチェンジが起きている」と指摘する。

 24年には、物流大手のAZ-COM丸和ホールディングスが同業のC&Fロジホールディングスに同意なき買収を仕掛け、工作機械大手の牧野フライス製作所の完全子会社化を目指すニデックの敵対的TOBも現在進行中だ。

 事業会社同士の経営権争奪戦はもはや珍しくもなく、買収価格が高いTOBに株主が粛々と応じるだけだ。前出の幹部は「それが上場企業の本来の姿だ」と言う。