同性からの共感か、異性ウケ狙いか

 不思議に思ったのは、このCMは女性向けなのか男性向けなのかという点だ。

 「緑のたぬき」の方は男性バージョンで、残業中の男性がひとりでカップを空けて麺をすする姿が映っている

 さみしい日に家でひとりで。頑張りたい残業中にひとりで。こんなことって日常にあるよね、という共感をテーマにしているのであれば、「赤いきつね」はどちらかというと女性、「緑のたぬき」はどちらかというと男性向けのCMに見える。

 しかし、同性の共感に振り切るのであれば、ひとりで残業中あるある、あるいは孤食あるあるで攻めるなど、どちらかといえばクスッと笑える仕上がりになることが多い。今回の場合はそうではない。

 声優さんの声が魅力的であり、髪をかきあげるなど仕草もそれはどちらかというと異性ウケを狙って見える。汁を冷ましたり、麺をすすったりするASMRの妙も相まって、一体これはどの層をターゲットにしているのだろうと首を傾げる。

 この辺りが、初見の際に感じた違和感の正体なのかもしれない。CM鑑賞の数十秒間で迷子になる。呼ばれたのかと思ったらまったくお呼びでない感。

 しかし、改めて考えてみれば、そもそも20〜30代の若者をターゲットにしているのであろうし、「男性向け」「女性向け」などと考えること自体が、もう古いだろうか。

 InstagramやTikTokを使い、家からでも一人でも全世界に生配信を行う令和の若者からすると、たとえ一人の場面であっても「誰も見ていないからくつろぐ」わけではなく、その世界観を演出することに違和感がない。一部からは「家で一人のとき、女性はあんなふうではない。あれは男性目線の妄想」という指摘があり、筆者もこれに近い感覚を持ったが、現代の若者からすると、一人の時間でも自己演出に余念がないことに違和感を持たないのかもしれない。