脱税と経済成長の不思議な関係

 個人が税金を逃れると、手元に残る資金が増える。結果、消費や貯蓄に回せる金額が増加し、経済活動は活発化する。この点において、短期的には脱税が経済成長にプラスの影響を与える可能性がある。

 一方で、政府は税収の一部を公共サービスに充てている。税収が減少すれば、公共サービスの質は低下する。政府は公共サービスを維持するために税率を引き上げるので、長期的には脱税が経済成長に影響を及ぼすことはない――というのが論文の趣旨だ。

 研究の結果からは、脱税を完全になくすことが必ずしも最適とは言えないことが示唆されている。税率の適切な調整を行えば、脱税による経済的影響を相殺できるためである。

 もちろん、税務調査を強化し、罰則を厳しくすることで脱税を抑制することも可能だ。だが、罰則を過度に強化しすぎると、企業や個人の行動に悪影響を及ぼし、経済全体の活力を損なうリスクもある。政策決定においては、成長と公平性のバランスが重要になる。

 もし稲盛氏が生きていたなら、「税金はきちんと払い、残ったお金で何をするかを考えた方がいい」と言っただろう。ちなみに、稲盛氏は税金が少ない方がよいという「小さな政府」論者であった。内心では、現在の税制や財政運営に対して強い不満を抱いていたのではないかと推察する。

 そんな稲盛氏だが、一度だけ税務署に対して激しい怒りをぶつけたことがある。今回は、そのエピソードを紹介して締めくくりたい。