稲盛が激怒した税務署の「脅し文句」

創業して間もないころ、京セラに税務調査が入った。税務署員が指摘したのは、エレベーターの価格についてだった。京セラが鉄工所に作らせたエレベーターは、原料を運ぶための簡単な構造であり、実際の価格は19万円未満だった。
ところが、税務署員は通常のエレベーターと同じ基準を適用し、40万円と査定した。京セラ側は仕入れの明細を示しながら説明したが、税務署は認めなかった。
不当な査定に対し、稲盛氏は激怒した。
「当方の担当者が実際にかかった価格を申し上げているにもかかわらず、単に形式的に軽量エレベーターの項を適用し、査定されるのはおかしいではありませんか。もう一度調査し直してください」(青山正次著『心の京セラ二十年』)
ところが、税務署員の返答は、まるで脅しのようなものだった。
「あるいはそれはそうかもしれませんが、我々がもっと詳しく調査すれば、もっといろいろ課税すべきものが出て、かえって高い査定になりますよ」(同書)
つまり、「あまり文句を言わない方が得ですよ」と暗にほのめかしたのである。こうなれば、ほとんど税務署による恫喝である。
こうしたやり取りは、今でも税務調査の現場で日常的に起きているようだ。ある税理士によれば、税務署員には機嫌よく帰ってもらうのが最善だという。だが、そんなことで引き下がる稲盛氏ではなかった。
「十分調査されて妥当な税なれば、たとえ高い税になっても支払います」
毅然とした態度を貫いた稲盛氏に対し、税務署員もさすがに押し切られ、査定を訂正したのだった。
通常、税務署が嫌がらせのように申告内容を細かくチェックし始めると、企業は面倒を避けるために税務署の要求を受け入れがちだ。稲盛は決して税金をごまかしていなかったからこそ、強く出ることができたのだろう。
青山は、同書で次のように振り返っている。
《たいていの者は税務署員に査定され、それが高いと思っても、『これくらいは黙って文句を言わない方が得ですよ。他に調査すれば、もっと高くなりますよ』と言われれば、黙って引き下がりがちである》
《現に、京セラの担当者も税務署員の言いなりになっていたのである。ところが、この税務署では、京セラの社長のように乗り込んできたのは初めてだと驚き、かつ感嘆していたそうである》
税金はきちんと払わねばならない。同時に、公平で納得のいく税務調査が行われるべきであり、税金の使い道もきちんと経済成長につながる政策を、合理的な根拠のあるものに絞って使うべきだ。