銀行の決算は1982年に大蔵省銀行局長が発出した通達「決算経理基準」に従うものとされていた。当時引当・償却といえば、通常は無税を指す時代であった。決算経理基準での無税償却は税法基準(法人税法・基本通達)が引用されていた。

不良債権償却制度が
廃止となった経緯

 実際は、銀行の場合、税法において無税償却・引当が認められる要件を充足した貸出について、「不良債権償却制度」に基づき、金融証券検査官の償却証明を得て引当・償却を行った。さらに、問題金融機関については、大蔵省が決算を事前にチェックする決算承認制度を実施していた。こうした中、銀行が支援を行っている取引先に対する貸出は、償却・引当を行わない扱いであった。

 銀行が債務者を支援するということは、銀行が存続する限り、債務者が破綻する可能性は低いということである。このため税の立場からは、破綻する可能性が低い支援先に対する与信にかかわる無税での引当・償却は、利益圧縮に当たるとされ認められなかった。なお、与信先に対する支援に関連し、金利減免に関わる収益支援部分や債権放棄も合理的な再建計画の存在を前提に、損金参入が認められる。一方、これら支援先向け与信は無税での償却・引当が認められない。

 大蔵省は行政の透明性を確保しつつ金融機能回復を図るため、金融監督の見直しを行った。1998年4月から早期是正措置を導入することとし、その前年3月に新たな資産査定通達を発出した。これに伴い、不良債権償却制度を廃止するとともに、決算経理基準を改正し、税法基準の引用を改め有税・無税を問わず、新基準で定める額を引当てることを求めた。ただし、税法規準による無税償却制度は残った。

 一審、二審では、新基準が唯一の公正な会計慣行とされた。一方、最高裁は、こうした過渡的な状況の下では、ただちに新基準を適用するには明確性が乏しい。これまで公正な会計慣行として行われていた税法基準の考え方によったことは違法ではない、というものであった。