「クルマの中でいい音」は、実はとても難しい
五:最初はどちらからだったかな……その辺りはちょっと定かではありません。何にせよヤマハさんの音づくりに対する思いはすごいですよ。社内に「サウンドマイスター」という制度があって、「音」に関しての全てを引き受ける責任者の方がいらっしゃるんです。
F:ヤマハにはピアノの国際コンクールに帯同して、演奏の前に最終的な調律をして音づくりをする職人のような人がいると何かの番組で見た記憶があります。
五:それと同じような方が、オーディオにもいるんですよ。アウトランダーの音づくりをする時に必ずやってきて、厳しく音チェックをしていかれるんです。
F:実験室とかではなく、実際にクルマの中で聞くんですか?
五:もちろんです。しかもただ止まっているクルマの中で聞くだけではなくて、いろんな道で実際にクルマを走らせて、様々な環境の中で音をチェックする。クルマの中の音づくりって、実はものすごく難しい。まず聞く人が中央にいないじゃないですか。運転席も助手席も必ず左右どちらかに偏っている。つまりスピーカーからの距離が違う。かつスピーカーが人に向かって正対していない。車載のスピーカーは、上を向いたり横を向いたりしていますよね。更に前後左右にガラスがあって、シートがあって、ステアリングがあって、やたらと反射物が多い。
F:や、なるほど。音が反射しまくる。
五:そう。すると「ピークディップ」と言う、ある特定の周波数帯の音が強かったり、逆に弱かったりする現象が必ず起きるんです。それをキチッと補正してやらないと、そもそもまともな「音」にすらならなりません。
F:高音が抜けずに“こもった”感じになったり、楽器とボーカルが混ざって聞こえる分離感のない音になったり。
五:そうですそうです。それを全部1個1個、しらみ潰しにマイスターの方が直していくんです。
F:面白い。そんな専門職があるんですね。
