いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

欲に流されるな
しかし、自分にないものをほしがらず、自分にもたらされたものを喜んで活用することはできる。(セネカ『ルキリウスに宛てた道徳書簡集』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より
すべてを食べることはできない
旅先のホテルなどでバイキング形式の食事をとることがある。小学生の息子は目を輝かせてお皿に料理をとって並べる。グラタン、唐揚げ、寿司、パエリア、ロールパンにソフトクリームと何でもありだ。
私はすでに何度も痛い目に遭っていることもあり、本当に食べたいものを厳選して取ろうとはする。しかしつい「あれも食べたい、これも食べたい」と欲望が暴走しそうになる。ローストビーフを食べながら「次は蕎麦をとってこよう」などと考え、せっかくのローストビーフをたいして味わっていないことすらある。その結果、「もっと食べたいのにもうお腹が苦しい」と悔しがるのだ。
これはつまり、満足できていないということである。たとえ種類は少なくても、食べたいものを味わって食べたほうが満足度が高くなるのは間違いない。
バイキングのときはよくよく「すべてを食べることはできない」と自分に言い聞かせなくてはならないのである。
ないものを探し続けていないか?
食べ物にしろ、それ以外のものにしろ、世の中にはありとあらゆるものがそろっているが、そのすべてを手に入れることはできない。都心の駅近で何でもそろっていて緑豊かな環境にあるおしゃれな平屋に住むことは難しいし、自分の才能が活かせて嫌な仕事がなく上司も部下もみんな協力的で休みが取りやすくて報酬が高い職場もなかなかない。
無意識に「ないもの」に注目して「これが足りない」「もっと欲しい」とモノや人を探し続ける習慣があると、いつまでも満たされなくなってしまう。すべてを手に入れることは誰にもできないのだから、こうした行動を続けることには損しかない。
「あるもの」に目を向けよ
ストア哲学は、幸福に生きるための実践的な哲学だ。ストア哲学者のセネカは、すでにあるもので満足し、自分にもたらされたものを活用しようとするほうが賢明だと説いている。
これは物質の話だけではない。目には見えない自分の資質もそうだ。
たとえば「細かいところを気にせず、嫌なことはすぐに忘れる楽観的な性格」と「緻密な計画を立て、丁寧に物事を進めることが得意な資質」を同時に持つことは難しい。楽観的なのは短所にもなりうるが、長所でもある。「もっと計画性がほしい、緻密さがほしい」と言うよりも、すでにある資質を活用したほうが幸せになりやすいのだろう。
本書では、上記の名言の理解を深めるために、「自分にあってよかったと思う、目に見えない資質を10個リストアップせよ」という課題が提示されている。私はこれをやってみて、あってよかった自分の資質は、日頃「自分に足りない」と思っている資質の裏返しでもあることに気づいた。
あなたもぜひ試してみてほしい。自分の思いがけない長所が見えてくるはずだ。
(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)