「部分的に段階を踏んで進めるというアプローチもありますが、本来一体として運用している制度を部分的に導入すると、どうしてもいびつになり、そこからほころびが生じます。人事制度は各要素が互いに連動しているので、グローバル標準に合わせるのが合理的。各構成要素がポジティブに影響し合ってこそ、全体が機能するのです」
2020年、富士通はジョブ型への転換を軸に人事制度のフルモデルチェンジを宣言した。改革を強力に後押ししたのが、時田社長の「IT企業からDX企業へ」という大方針だ。ビジネスモデルの変革と人事改革を同時進行することで、改革の必然性と組織の一体感が生まれた。30年前の挫折と20年におよぶ停滞を経て、失敗は生かされたのだ。
人事から事業部門へ権限移譲 「人ありき」から「事業ありき」へ
富士通のジョブ型人材マネジメントの核となるのがポスティング制度だ。各事業部門が必要な人材要件を明示して社内公募し、社員が自由に応募できる。
この導入にあたり、富士通は人材マネジメントの主導権を人事部門から事業部門にシフトした。
まず、各事業責任者が「3年後のビジネスビジョン」を描き、「それを実現するにはどんな人材が何人必要か」を明確化する。人事部門は人材のプロフェッショナルとして、事業部門のサポート役に徹する。「事業部門に権限移譲すれば採用が無秩序になる」という懸念には、経営陣が承認した枠内に裁量を限定することで、各部門の自律とガバナンスを両立した。
社内公募も自己啓発も、50代がもっとも意欲的
ポスティング制度は社員側にも大きな変化をもたらした。導入から4年で国内社員8万人のうち、のべ2万7000人が応募し、1万人が希望のポジションを射止めた。特筆すべきは、世代別の応募状況だ。
「ポスティングへの応募も自己啓発も、50代がもっとも積極的なのです。私自身、年齢が上がると意欲は落ちると思い込んでいたのですが、完全に覆されました」
この結果は、日本型人事制度の問題点を浮き彫りにしたとも言える。
「年功序列と終身雇用が、50代の可能性を狭めてきたのです。50歳になると『後進に道を譲らなければ』という空気になり、多くの人が新たな挑戦を諦めてしまう。これは従来の人事制度が生み出した固定観念であり、とてももったいないこと。自分で選び、選ばれる環境であれば、50代も大いにチャレンジできるはずです」
道を譲らなくてもいい。いくつになっても遠慮せず、自分が大活躍すればいいのだ。
「会社員だって、サッカーのキングカズと同じです。培ってきた経験を武器に、20代の若手とポジションを争って、やりたいことをやればいいんです。そのほうがきっと人生は楽しくなります」