レシピ多すぎ、コスパ悪すぎ、献立ムズすぎ、皿洗い嫌すぎ……! 初心者だろうと、日々料理を作る人だろうと、平等に立ちはだかる自炊の壁。時間も余裕もないのに、どうすれば自炊を続けられるのか?「料理を勝手に難しくしているのは自分です」と語るのは、料理を体得したミニマリスト・佐々木典士氏と、自炊料理家の山口祐加氏。新刊『自炊の壁』では、初心者がレシピなしで料理できるようになるステップ100を完全網羅している。「気持ちが楽になった」「自分のための本だ!!」と話題が広がる本書から、内容の一部を紹介する。

【豆腐があったら…】普通の人は「醤油をかける」。では、料理上手はどう考える?Photo: Adobe Stock

なぜ豆腐にしょうゆだけでは
さびしいのか?

佐々木典士(以下、佐々木) 野菜にタンパク質を足したり、食材を2つほど組み合わせると料理らしくなる。素うどんとか、豆腐にしょうゆだけをかけたのは確かにさびしく感じたりする一方、トマトに塩をかけたのは一品として完成しているのはなぜなのか? と思ったりしました。きゅうりに味噌をつけただけもそうかもしれないけど。

山口祐加(以下、山口) 確かに、面白い! トマトの複雑性ですかね。素うどんにはあまり複雑性はないんですよね。相当上質な出汁とか、使ってる小麦粉がすごくいいと成立するかもしれない。トマトもきゅうりも、単体で複雑な風味も食感もあるんですよね。

佐々木 その複雑性を単体で出せれば料理らしさが成り立つってことなんですかね。トマトをそのままかじっても皮と種の部分で食感は違うし、香りも強い。甘味も酸味もあるし、旨味も野菜の中ではトップクラスのようですね。でもその辺で売ってる冷凍うどんとかでは、味も食感も均一すぎるのかも。

料理家の「豆腐」に対する考察

山口 ただの冷奴(ひややっこ)も一口目はいいかもしれないけど、同じでしょうね。あるいは、「三之助(みのすけ)」みたいな高級な豆腐に、風味の良いしょうゆをかけるならそれだけで成立しそうです。

でもスーパーで売ってる3個パックの充填豆腐に、普通のしょうゆだけだと、ねぎとかしょうがとかないですか? と言いたくなる。でも豆腐はトマトのように単体の満足感は少ない代わりにニュートラルで、麻婆豆腐に入れたり、いろんな味付けができるのが強みですね。

佐々木 「いろいろな栄養がそこにありそう」と脳が感じられる、奥行きや立体感があるものが美味しいというのも料理の法則のひとつでしょうね。このトマトは新鮮で風味があるから塩だけでいいやとか、安い豆腐だからかつお節で旨味を足そう、しょうがで香りを足そうとか、そういう発想ができるようになると良さそう。

山口 料理はすぐ「美味しい」っていう一言に集約されちゃいますけど、「美味しい」は五味、香り、食感といった要素が絡み合ったものなんですよね。

(本稿は、書籍『自炊の壁』を一部抜粋・編集したものです。本書では、料理のハードルを乗り越える100の解決策を紹介しています)

佐々木典士(ささき・ふみお)
作家/編集者
1979年生まれ。香川県出身。雑誌「BOMB!」「STUDIO VOICE」、写真集や書籍の編集者を経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに「Minimal&Ism」を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は26か国語に翻訳され80万部以上のベストセラーに。『ぼくたちは習慣で、できている。』は12か国語へ翻訳、累計20万部突破。両書とも、増補文庫版がちくま文庫より発売。

山口祐加(やまぐち・ゆか)
自炊料理家
1992年生まれ。東京都出身。出版社、食のPR会社を経て独立。7歳の頃、共働きで多忙な母から「今晩の料理を作らないと、ご飯がない」と冗談で言われたのを真に受けてうどんを作ったことをきっかけに、自炊の喜びに目覚める。現在は料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」や執筆業、音声配信などを行う。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(晶文社)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』(ダイヤモンド社)など。