
三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第175回は、就活生の「親世代」が意外に知らない優良企業を紹介する。
子どもからの就活相談に過保護親がポロリ
時価総額争奪ゲームで劣勢だった主人公・財前孝史は、ファクトリー・オートメーション(FA)の総合メーカーで日本屈指の高収益企業キーエンスを皮切りに、BtoB(企業間取引)の有力銘柄を次々とゲットして挽回のきっかけをつかむ。
つい最近、知人から子どもの就職活動について相談を受けた。内定をもらったと報告されたのはいいが、「聞いたこともない会社で戸惑っている」という。
「もっと知名度の高い大企業を目指して就活を続けたらどうか」と子どもに助言したが、反応が良くない。第三者としてアドバイスしてやってほしい、とのことだった。
ちょっと過保護だなと思いつつ、念のために内定先がどこか聞いたら、キーエンスだと言う。「本当に、聞いたこともない?」と問い返すと、「知らない。有名なのか」。
しばし絶句した後、真剣に就活の現状を学ぶつもりがないなら、今後は一切口出ししない方がいい、と忠告した。
その知人はある大企業に長年勤め、社会人経験は長い。しかし、業界内で完結する職種で、日本の産業全般に理解があるわけではない。株式投資とは縁遠く、経済系メディアに触れる機会もほとんどない。
となると、日本屈指の最強企業キーエンスを知らない、という事態は起きうる。特に「穴」になりやすいのが、日本企業の強いBtoBの分野だ。
キーエンスの次に内定した「超優良企業」

財前がピックしたBtoB企業は、たとえ自分が投資をしていなくても業績動向のチェックが必要なほど、株式市場で存在感のある銘柄だ。
私自身もいずれの企業の株主でもないが、信越化学工業と村田製作所は半導体やテック関連製品の「川上」を把握するために業績をウォッチしている。ファナックは世界の製造業の設備投資の先行指標であり、今は特に中国経済の不調を測るバロメーターとして重宝している。
こんな「穴」を避けるためにも、投資に無縁な人を含めて「すべての社会人は会社四季報を一度は通読すべき」が私の持論だ。この連載の「『コレだけは読んでおけ!』就活で悩む学生に元日経新聞記者がオススメする一冊とは?」の回でその効用を説明した。
全上場企業の寸評を通読すると、「ニッポン株式会社」の見取り図がぼんやりとアタマに入るのが最大の利点だ。隠れた優良企業が多いことや、知名度と収益力が比例しないことなど、初めて読む人には発見の連続のはずだ。
就活の時期になったら、本人だけでなく親も読んだ方が良い。通読には通常サイズではなくワイド版をオススメする。娘が就活中なので、最近、我が家もワイド版最新号を購入した。
冒頭の知人の話には続きがある。その後、知人のお子さんは別の企業から内定を得た。前回の私のアドバイスが効いたのか、今度は先に私に問い合わせが来た。
「エムスリーって、知ってる?」。即座に「超優良企業」と返信した。医療とITを組み合わせたユニークなビジネスモデルで世界をリードする存在だ。
「エムスリー? 聞いたことがないな」という方。四季報最新版の通読を検討してみてはどうだろうか。

