この病気はサプリメントを使用し始めてから比較的早く発症し、進行性で症状が重いために原因がわかりやすいものでした。
一方、類似の腎機能障害が1920年代からヨーロッパで報告されており、1950年代に発症の多い地方の名前をとって「バルカン腎症」として知られるようになりました。のちにこの地方に自生するアリストロキア酸を含む植物の種が、小麦畑で小麦と一緒に収穫されて食べられることが原因と考えられるようになります。
これは、低濃度のアリストロキア酸に長期間暴露することによる、一定の年齢層の人々に見られる進行の遅い腎疾患です。その後、中国ハーブ腎症とバルカン腎症はアリストロキア酸腎症(AAN)と総称されることになります。そしてAAN患者は時間が経ってから尿路と肝胆道のがんを発症するリスクが高いことも明らかになりました。

畝山智香子 著
中国伝統薬を日常的によく使っていて、アリストロキア酸摂取と末期腎疾患や上部尿路がん、そして肝臓がんとの関連が明確になっているのが台湾です。
日本でもそうですが、いわゆる漢方薬は、「西洋薬」(医学や薬学の分野でそういう呼び方はしませんが、代替医療の関係者がそのように呼ぶことがあります)とは違って体質を改善するためにと長期間にわたって使用するよう勧められることがあります。さらに天然物で効果が穏やかなので、安全だとみなされて子どもにも使われます。
いわゆる西洋薬だったら、医師が医薬品を処方したら定期的に効果は出ているか、副作用はないかなどのフォローアップが行われますが、伝統薬の場合漫然と使われ続けてしまいます。結果的に長期にわたり大量に摂取することになり、有害影響が出ていても発見が遅れがちです。
発がん性のようなものは、とりわけ時間が経たないとわからず、伝統薬であるということは何の保証にもなりません。大昔の人はがんになる前に他の病気で亡くなる可能性のほうが高かったでしょう。