昨年から新NISAがスタートし、少しでも資産を増やしたい人が増えている。だが、統計を見ると、まだまだ投資に踏み切れていない人が多い。また、新NISAを始めた人も株価の乱高下で不安な日々をすごす人も多いようだ。今、注目を集めているのが、「『金持ち父さん 貧乏父さん』以来の衝撃の書!」と絶賛され、YouTube「株の買い時を考えるチャンネル」でも紹介された全米ベストセラー『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』だ。そこで今回、本書の著者ニック・マジューリ氏(データサイエンティスト)の来日時に独占インタビューを行ったファンドアナリストの篠田尚子氏が登場。篠田氏は「読むと人生が変わる」と話題のベストセラー『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』著者スコット・ギャロウェイ氏のPIVOT特別インタビューにも成功。つまり両者を直にインタビューした日本で唯一の人物だ。そんな篠田氏は『JUST KEEP BUYING』をどう読んだのか。インタビュー秘話を交えた特別寄稿第2弾をお届けする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

インタビューで「これだけは」絶対聞きたかったこと
ニック・マジューリ氏とのインタビューを前に、これだけは必ず意見を交わしたいと思っていたのが、大学の教育費に関する内容だ。
『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』の中でニック氏は、大学に通うか否かの損益分岐点としての「価値」を簡易的に算出したうえで、「大学進学には相応の価値がある」と断言している。
私が興味深いと思ったのは、この内容が「借金はすべきか?――クレジットカードの負債が必ずしも悪ではない理由(第6章)」という章の一節として取り上げられていたことだ。
世界的に大学の学費が高騰する中、いまや大学の学位を取得するためには、奨学金を受けるなど事実上の「借金」が前提となっている。
大学に通う意味はあるか?
ニック氏は、大学への進学がコストに見合うかどうかを試算する方法として、以下の計算式を提唱している。
学位の現在価値=(大学に通うことで増える生涯収入÷2)― 逸失利益
これを書き換えると、
上記における「学位の現在価値」とはつまり、学費の自己負担額を指す。
また、「逸失利益」とは、働かずに大学に通うことで失われた収入を意味する。
式の最後に「2」を掛けているのは、便宜上、年率4%のインフレ率を近似値で表していると考えてほしい。
具体例を用いた計算は実際に本書で確認してほしいが、結論として、ほとんどの大学の学位には時間とお金をかけて通う価値があるという。
このニック氏の主張にどうも納得がいかないという人もいるかもしれない。
学位取得の成果を収入だけで機械的に算出することに違和感を覚える声もあるだろう。
教育そのものには社会福祉の側面もあるし、日本の歴史的文化的背景を考えれば当然とも言える。
一方で、たとえば、社会人の「学び直し」はどうだろうか。
ビジネススクールへの進学や留学を検討するにあたっては、逸失利益も含めて慎重に検討すべきということが直観的に理解できるのではないだろうか。
大学の学位取得に関してもやはり、世界との距離が縮まり、現代の若者ほど国際的な感覚が求められるようになっているなか、ニック氏の主張を「アメリカの話だから」と受け流してしまうのもまた違うと感じている。
教育が「投資」と断言できる理由
インタビューの際、ニック氏に改めて「教育は明確に『投資』と捉えてもよいか」と質問したところ、はっきりとそうだと答えてくれた。
この背景には、アメリカの大学進学事情も多分に関係していると思われる。
私事で恐縮だが、実は私は小学校から高校卒業までの計10年間をアメリカですごした。1990年代に、ニック氏の出身地でもあるカリフォルニア州の公立小・中学校に通っていた。
当時から、「大学進学にはお金がかかる」というのは子どもでもよく理解している、当然の感覚であった。
そのため、中学進学あたりから、少しずつ自分が進みたい方向性を見定めるようになり、成績の向上はもちろん、ボランティアなどの課外活動にも取り組むようになる。
ニック氏もそうだったようだ。
たとえば、私が住んでいたカリフォルニア州南部の場合、一定の成績を収めている者はまず、州立大学であるカリフォルニア大学のロサンゼルス校(UCLA)やバークレー校(UC Berkeley)を目指す。
というのも、州の税収によって運営されている州立大学の場合、州内からの進学が有利で授業料が優遇されるなど、圧倒的な優遇措置があるからだ。
他方、同じ南カリフォルニアでも、私学の南カリフォルニア大学(USC)を目指すとなったら、学費だけでも3倍近い開きがある。
あるいは、カリフォルニア在住で、東海岸マサチューセッツ州にある私学のハーバード大学に進学したいとなったら一大事だ。
世界中から学生が集まるアメリカの大学は、単に学校の成績が優秀というだけで奨学金が受けられるほど甘くはない。
収入の水準など、あくまでもニーズに応じた援助が原則である。
このように、多くの場合、中学生ぐらいの時点で必然的に家庭の金銭事情をなんとなく理解するようになり、相応の覚悟を持って進学を目指すようになる。
学位取得のための金銭的・時間的負担はすなわち投資であり、借金(奨学金)の返済と、リターン(収入)を得るところまでが1セットになっている。
日本が世界の金融孤児にならないために
さらに、こうした一連の話を家庭内で共有することが金融教育にもつながっているというわけだ。
日本では近年、高等教育の無償化をめぐる議論が活発化している。
しかし、教育を明確に「投資」と捉える向きはまだ見られないどころか、教育の成果としての学位を金銭換算すること自体がタブー視されているように感じる。
教育を受けることで得られるものは金銭換算が難しい面もあるが、良い生活を送るためという根底の目的は昔も今も揺るがない、世界的なコンセンサスである。
また、日本でも国をあげてリカレント教育(学び直し)を推奨する中、教育を投資として捉える動きは今後避けて通れない。
時間とお金は有限だ。
学費高騰が進む今こそ、世界の潮流にも目を向けるべきだろう。
(本稿は、『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』に関する書き下ろし記事です)
篠田尚子(しのだ・しょうこ)
ファンドアナリスト。CFP®、1級FP技能士
日本で数少ないファンドアナリスト兼FPとして、資産形成の初歩的な解説から具体的な商品の提案に至るまで幅広くカバー。