「温度」というのも、私たちの心理に影響している。常識的に考えてみても、暑すぎる部屋や、寒すぎる部屋では、どちらも私たちは、「もう話なんて、していられない」という気分になるだろう。つまりは、「部屋の設定温度」を巧妙に操作することで、相手の口を割りやすくしたり、逆に、沈黙させたりできるのだ。
グリフィットという心理学者は、模擬的なインタビューをするという名目で、実験に参加してくれる人を集めた。見知らぬ人たちを集めて、インタビューという名目での、話しあいをするという実験である。それだけの実験なのだが、グリフィットは、だれにも内緒で、こっそりと部屋の温度をあれこれと変えてみた。
その結果、この実験では、部屋の設定温度を32℃以上にすると、参加者たちは、インタビューで質問されたときに、答えるまでの反応が鈍くなっていた。あまり頭がぼんやりするような蒸し暑い状態では、人はあまりしゃべらなくなっていたのである。
たしかに、真夏のジリジリするような暑い日の屋外や、サウナの中では、人は、会話をしなくなる。筆者も、サウナが好きだが、サウナの中では、だれもがみな静かにしているものである。暑いところでは、人は無口になるのだろう。
ホンネを探るには、
「やや暖かい」くらいがベスト
では、寒くすればいいかというと、それも違う。「冬」は、人があまりしゃべらなくなる季節であるように、寒いところでも、私たちは口をきかなくなる傾向があるからだ。
結局のところ、人のホンネを探り出すのに一番好ましいのは、「やや暖かい」と感じる状況である。夏ならクーラーで冷やし過ぎないように、冬ならややポカポカするくらいがベストだ。
ロールズという研究者が年代別に調べた調査では、人が快適だと感じる温度は、時代とともにどんどん高くなっているという。
たとえば、アメリカの場合だと、1924年には、17.7℃が一番気持ちよく感じる最適の温度だったが、1929年には18.8℃、1950年には20.0℃、1960年には21.5℃、1972年には24.4℃と、年代順にあがっていっているという。つまり、どんどん私たちは寒がりになっているのだ。
この意味でいうと、温度で考えると、「やや高め」がいいのではないかと推測できる。もちろん、頭が朦朧とするような暑さになると逆効果であるが、少し高めくらいだと、相手も快適になって、会話をしてくれるのではないかと考えられる。