緩和ケアでなぜ「ガリガリ君」が
表彰されたのか?
たとえば3月28日(金)に終了したNHK連続テレビ小説『おむすび』で、1月に視聴者を沸かせるやりとりがあった。時期は2014年頃。妊娠していることに気付かないまま、吐き気と食欲不振を我慢して働き続けた主人公・結(橋本環奈)は、重症性悪疽(おそ:つわり)からの脱水と腎盂腎炎を併発して入院してしまう。熱はすぐに下がったが、管理栄養士の西条小百合(藤原紀香)の指導で、無理に食事を摂ることはせず、栄養補給を点滴に絞り、絶食する。
やがて症状は回復したものの、依然食欲が湧かない結に、西条は「なんでもいいから食べたいものを言ってみて」と尋ねた。すると結は、「ソーダ味のアイスキャンディーだったら食べられるかも」と答えたのだった。この展開にSNS上では、「これはガリガリ君ソーダのことですね」とのコメントが相次いだ。ちなみに「ガリガリ君」は赤城乳業の大定番商品。
なんと緩和ケアの分野では、この数年、嚥下(飲み込み)機能が衰えた人でもおいしく食べられるガリガリ君が大人気なっていると、複数のメディアが報じている。アイスキャンディーは口の中で少しずつ溶けていくため、水ではむせてしまう人でも安全に飲み込めるのがいいらしい。しかもガリガリ君は、幼いころから慣れ親しんだ味。懐かしさもあるのだろう。その功績はなかなかのもので、日本緩和医療学会は2019年の学術大会で、ガリガリ君に「最優秀緩和ケア食の維持賞」を贈り、感謝を示した。
朝ドラの主人公は結局、ソーダ味のアイスキャンディーは食べさせてもらえず、代わりに冷凍ブドウを提供されたが、病院が「食欲が湧くよう、おいしく食べられるもの」を考えてくれたことを意外に思った視聴者は、多かったのではないだろうか。
今や緩和ケアだけでなく、病院食全体としても、「おいしく食べられる」ことを重視する動きは広がっている。
医師に加え、歯科医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、理学療法士、調理師など、食に関係する多彩な職種が参加して「栄養治療」について考える日本最大の学会「日本栄養治療学会」では、2023年から年1回「患者さんのための見た目にも美味しい病院食コンテスト」を開始した。