食欲がなくなると救命率が下がる
患者の生死に関わる「病院食の美味しさ」

 栄養治療では、「栄養状態が悪い『低栄養』は、医学的には『病気』である」との考え方に基づき、治療する行為すべてが含まれる(ただし、「健康のためには○○を食べよう」とか「腸内細菌を増やすには○○がいい」のような治療行為以外の事柄は当てはまらない)。

 2021年2月~25年1月まで理事長を務めた比企直樹氏(北里大学医学部上部消化管外科学主任教授)は、「栄養とは、医師として第一に取り組む治療です」と語っている。その原点となったのは、若き日に勤務していた某大学病院の救命救急センターでの経験だった。

「当時の三次救急の救命率は10%以下で、搬送されてきた人の10人中9人は亡くなっていました。九死に一生を得たのは“栄養状態のいい人”でした」

 栄養は人の生き死にを左右すると痛感した比企氏は、その後現在に至るまで、栄養と外科の両輪で治療に取り組んでいる。

「まずくて吐きそう…」患者に嫌われる病院食が、最近劇的に美味しくなった医療現場の事情 第40回日本栄養治療学会学術集会で講演する比企直樹氏(筆者撮影)

 分けても重要なのは「食欲」で、食欲がなくなると、口から食べることができなくなり、食べられないことは低栄養につながって、本来受けられるはずの治療(抗がん剤治療や手術など)が行えなくなるのだという。つまり病院食も、いくら栄養的に完璧でも、見た目が悪く、食べてもおいしくない、食欲をそそらないようでは、治療の目的が果たせないということになる。

「見た目もおいしい」にこだわった病院食コンテストのベースには、こうした比企氏の信念が反映されている。

 2回目の開催となったコンテストでは、クックサーブ部門とクックチル(*1)・ニュークックチル(*2)部門の2部門について審査が行われ、2024年12月25日、前者では武蔵野徳洲会病院が、後者では竹田健康財団竹田綜合病院がそれぞれグランプリを受賞した。

(※1)クックチルとは、加熱調理後30分以内に冷却を開始し、90分以内に中心温度3℃以下まで急速冷却をして、0~3℃で衛生的に保存しておき、食事を提供するタイミングで最終加熱(再加熱)する調理システムのこと。 
(※2)ニュークックチルとは、加熱調理した料理をチルド状態(0~3℃)に冷却して、チルド状態のまま盛り付けをおこない、食事を提供する前に再加熱を行うシステムのこと。