華やかでサクサク、ボリューム満点
「見た目」にも美味しい今どき病院食

「まずくて吐きそう…」患者に嫌われる病院食が、最近劇的に美味しくなった医療現場の事情クックサーブ部門のグランプリを受賞した、武蔵野徳洲会病院の病院食

 武蔵野徳洲会病院の受賞メニューは「食欲そそる彩鮮やかな本格中華」。病院食とは思えない華やかでボリュームの満点のエビチリ定食は、デザートの上に載った赤いクコの実が心憎い。

 一方の竹田健康財団竹田綜合病院のメニューは「美味しさギュギュっと秋ごはん」。季節感のある食材を使い、様々な食感が味わえる和食繕だ。料理科学の専門家の力も借りたとのことで、秋茄子のカツ風は茄子の水分で衣が湿らない工夫が調理工程すべてに凝らされており、サクサクなのだという。

 25年2月の学術集会で行われたグランプリ講演では、受賞者代表による「病院食は、われわれからすれば何百食のうちの一食でも、患者さんからすれば唯一の食事。そこには妥協があってはならない」(武蔵野徳洲会病院・土屋輝幸氏)、「私たちの挑戦は、『入院中の食事は唯一の楽しみ、ブラッシュアップしてください』という患者さんからの一通の手紙から始まりました」(竹田綜合病院・丸山聖子氏)のスピーチが印象的だった。

「まずくて吐きそう…」患者に嫌われる病院食が、最近劇的に美味しくなった医療現場の事情クックチル・ニュークックチル部門のグランプリを受賞した、竹田健康財団竹田綜合病院の病院食

大切な人たちと一緒の料理が食べたい
麻布のレストランも参入

 同様の動きは、病院の外でも始まっている。

 元麻布のレストラン「EPICURE(エピキュール)」のオーナーシェフ・藤春幸治氏が創案し、提供している「ケアリングフード」だ。

「まずくて吐きそう…」患者に嫌われる病院食が、最近劇的に美味しくなった医療現場の事情「EPICURE(エピキュール)」オーナーシェフ 藤春幸治(ふじはる こうじ)氏

 アレルギー疾患や糖尿病、高血圧などの持病があると、当人も周囲も、食についてはどうしても気にしてしまうことが多い。家庭では、アレルゲンを絶対に使わないこと・混入させないこと、低糖質、低脂質、塩分制限などなど当人の健康を守るために、家族(当人も)は日々研究と努力と、細心の注意を怠ることができない。外での会食の設定も難しい。メニュー選びから乾杯の飲み物まで、幹事は当人に負い目を感じさせたくないし、当人も周囲に気を使わせたくない。「食」という、生きていく上で欠くべからざる楽しい時間を、病気はしばしば奪ってしまうものなのだ。

 そこで、藤春氏は考えた。

「純粋に美味しい食事を楽しみたい人も、食事制限、個食理念を持っている人も、心おきなく1つのテーブルを囲めるように、食のダイバーシティに対応するテーラーメイドレストランを作りたい」

 夜、レストランの営業終了後に、アレルギーや糖尿病のドクターや管理栄養士らを店に招き、食事をしながらヒアリングを重ねた。そして、大切なことに気付く。