トランプ関税の影響で株価が乱高下している。新NISAを始めた人も、まだ投資を始めていない人も不安はつきない。そこで今回は、「『金持ち父さん 貧乏父さん』以来の衝撃の書!」と絶賛され、「株の買い時を考えるチャンネル」でも「お金好きな人にマジでオススメ!」と話題となっている全米ベストセラー『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』の著者ニック・マジューリ氏(データサイエンティスト)にインタビューした篠田尚子氏(ファンドアナリスト)が登場。篠田氏は「読むと人生が変わるお金の哲学書」と話題のベストセラー『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』著者スコット・ギャロウェイ氏のPIVOTインタビューにも成功。両者を直にインタビューした日本で唯一の人物だ。そんな篠田氏は『JUST KEEP BUYING』をどう読んだのか。不安を抱える日本人への特別寄稿第4弾をお届けする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

頭がいい人の投資戦略
『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』の著者であるニック・マジューリ氏が提唱する「Just Keep Buying」とは、定期的に一定額の投資を続け、時間をかけて富を築くことで、比較的「穏やか」に経済的自由を得ることができるという考え方である。
この戦略の核心は、投資家が短期的な市場の動きに一喜一憂することなく、長期的な視野で資産を積み上げていくことにある。
市場が下落しているときにも冷静に買い続けることが、最終的に大きなリターンを生むというわけだ。
日本でも、2018年開始のつみたてNISA、そして、2024年開始の新NISAを通じて、資産形成の第一歩としての投信(投資信託)積立が着実に浸透してきた。
定期的に一定額の投資信託を購入することで、相場が下落した際には多くの口数を買うことができ、相場が回復すれば利益を得るチャンスが増える。
このドルコスト平均法(DCA)の効果について、いまや多くを説明する必要はないだろう。私自身、資産形成の基盤は、NISAで投資信託の積立を行うことを勧めている。
積立投資「だけ」ではもったいない理由
正直に言うと、長期の積立投資は、退屈な投資方法でもある。
一度積立を設定しまえば、基本的には「ほったらかし」にしておくことになる。
余裕資金の範囲内という注釈付きではあるが、私は、若いうちに様々な投資に挑戦し、小さな失敗を経験することもまた大切と考えている。
上昇を続けていた投資信託の積立額を増やしたら途端に価格が動かなくなったり、SNSで話題の銘柄を買ったら結果的に高値掴みになってしまったりしても、まだ取り戻せる機会=時間が十分に残されているからだ。
ニック氏も、
「若い人が投資をするうえで、時間ほど頼もしい味方はない」
と述べている。
このように、資産形成期に経験することの大部分は「許される失敗」として片づけられる。
小さな失敗の積み重ねは、やがて投資の引き出しを増やすことにもつながる。
その意味で、若いうちは、資産運用におけるリスク管理はアバウトでもかまわない。
もちろん、若くても「許されない失敗」はある。
自己資産の大部分を一つの高リスク資産に集中させたり、借金をしてレバレッジを効かせた投資を行ったりすることは、一度の失敗で大きな損失を招く可能性があるため、明確に避けるべきだ。
資産形成の初期は、自分のリスク許容度を知る貴重な時期でもある。
やはり、投資に回す金額は、無理のない身の丈に合った金額という原理原則には着実に従ったほうがいい。
失敗が許されない人ほど
取り入れるべき資産とは?
他方、年齢を重ねるほど、あるいは、投資に充てられる時間が短いほど、失敗は許されなくなる。
つまり、リスク管理がより重要になる。
『JUST KEEP BUYING』の中でニック氏は、相場環境など、投資に「運」の要素があることは認めつつも、不運が起こる前にも後にも対処できる方法はあるという。
そこで、リタイア間近で、今度の株式市場が悪い10年間を迎えるのではないかと不安になっている人に向け、「低リスク資産に分散投資する」という対処法を提案している。
ここでいう「低リスク資産」とはつまり債券である。
債券は、株式と比べると期待できるリターンこそ限定的であるものの、預け入れ当初の利子が確約され、満期まで保有すれば投資元本がそのまま返ってくる。
老後に備えて十分な債券を保有していれば、株価の下落時に資産を取り崩す際、株ではなく、債券を売ることでマイナスの影響を抑えられるというわけだ。
なお、元本の保全性が高い債券は、リタイア間近の人だけでなく、「減らしたくないお金」の運用先を探しているケースでも活用できる。
資金計画が立てやすいため、向こう数年以内に使う予定があるお金の運用先にも向いているということを補足しておきたい。
「明日」まで待つな
2025年に入り、不安定な相場環境が続く中、今このタイミングでNISAや積立を始めるべきか迷っている人も多いのではないだろうか。
実は積立投資では、開始当初よりも終盤期の成績のほうが、資産の増え方に与えるインパクトが大きい。
長期的に投資額をつぎ足していくことで、累積の投資額が増えるためだ。
コツコツと積立を続けて増やした口数を、終盤期にいかに効果的にリターンにつなげられるかが、積立成功のための秘訣である。
つまり、仮に積立を始めた途端に相場が急落してしまったとしても、それは失敗には含まれない。
繰り返しになるが、投資で重要なのは終盤期の成績である。
「物事を始めるのに最高の日は昨日。次に良いのが今日。」
とは、ニック氏が紹介している古いことわざだ。
長期の積立が前提なら、積立の開始時期を気にする必要はまったくない。
むしろ、今すぐ始めよう。
(本稿は、『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』に関する書き下ろし記事です。)
篠田尚子(しのだ・しょうこ)
ファンドアナリスト。CFP®、1級FP技能士
日本で数少ないファンドアナリスト兼FPとして、資産形成の初歩的な解説から具体的な商品の提案に至るまで幅広くカバー。