実は中国に深く依存している医薬・医療品業界

 トランプ政権は、韓国や日本の船舶部品に追加関税をかけ、米国での生産を促す可能性が高い。造船のような重厚長大な産業分野もそうだが、半導体など先端分野でも品目別の関税政策を実行するとしている。

 主なターゲットは、戦略物資の半導体と医薬品だろう。半導体に関してトランプ氏は、バイデン前政権の政策を批判し続けている。補助金支給で連邦財政の債務が膨れたにもかかわらず、米国内でAIチップなど半導体の生産が増えていないと指摘する。

 トランプ氏は演説で、世界最大のファウンドリー(半導体の受託製造企業)である、台湾積体電路製造(TSMC)が2000億ドル(1ドル=147円で約23.4兆円)の投資を表明したことを取り上げた。「TSMCは関税を支払いたくないから米国に投資を表明して工場を建設するんだ」とトランプ氏は言い放った。

 中国の半導体産業の成長を阻止するために、トランプ氏は半導体の製造装置の対中輸出を一段と厳格化するとみられる。半導体製造に欠かせない露光装置や検査装置、さらには日本企業のシェアが高い超高純度の半導体部材にも追加関税を検討していることだろう。

 また、「米国が抗生物質を生産できないことは深刻だ。戦争があっても対応できない」と発言してもいる。医療・医薬品の分野でも米国がウイークポイントを抱えていると自覚しているのだ。そこで追加的な関税を発動し、米国内で必要な治療薬を生産するよう関係各所に求める可能性は高い。

 医薬品分野の関税政策も、対中規制や制裁と密接に関連すると考えられる。現在、世界の医薬・医療品業界は中国に深く依存しているからだ。2020年時点で抗菌剤の原料の88%程度は中国由来だったとみられている。

 中国政府の産業補助金政策によって、中国企業の生産コストはインドよりも低い。関税だけでなく、知的財産の流出を防ぐための対中制裁を発動する可能性も高いだろう。