刀における森岡さんとメンバーの役割分担とは?

早稲田大学大学院経営管理研究科、早稲田大学ビジネススクール教授
慶應義塾大学卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事後、2008年 米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(博士号)取得。 同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。2019年より教授。専門は経営学。国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。メディアでも活発な情報発信を行っている。
入山 私が言うのも僭越(せんえつ)ですけど、森岡さんは言語化能力がすごいですね。「旅シズル」とか、暗黙知を表現するような、最高の言葉を紡ぎだされる力がすごい。
森岡 私の頭の中のモヤモヤを自分の左脳が納得できるように言語化すると、今の場合は「旅シズル」ですね。私は物事をすごくラショナル(合理的)に考えてしまうので、感情的・感覚的な表現はあまり得意じゃないかもしれません。自分の中の考えや思考概念を言い当てることはマーケティングでも大切なので、そこで練習させていただいてきたのかなと思います。あとは、要点について点と点をつないでストーリーとして語ることもすごく大事だと思ってて、結局人をワクワクさせたり腑に落ちるようにできるのは、結果に直結する最も大事なドライバーだと思ってるんですよね。
入山 さすがですね。それも先天的ですかね。
森岡 いやぁ恥ずかしながら、ずっと国語の点は低くて、小説読解とか苦手でしたね。「主人公の気持ちを選びなさい」という設問で、「すがすがしい気持ち」「さっぱりした気持ち」……と選択肢があったりしますよね。「そんなん知らんやん!」と。作り話の登場人物の気持ちを問題にすること自体に意味がない、と思っちゃうんですね。答えがあるような、ないような、イライラするわけです。今ならわかりますよ。もっとも標準的な言葉の記号性を咀嚼(そしゃく)してコミュニケーションできる頭脳があるかどうかを問われてるだけなんですよ。
入山 (爆笑)だから逆に、エクストリームな経験という暗黙知から入っていくけど、今ではマーケティングのトレーニングを積まれてきてるから、その感覚を凡人にもわかるように表現する最適な言葉を選ばれている、ということですよね。
森岡 そうなんです。憑依する対象になる人と同じように、自分も熱中してシンクロするわけです。そうすると、その人の感覚を咀嚼することで、私以外の人にもわかるように表現する。そこから、より一般の方に刺さるフレーズを生み出すコピーライターにつなげる わけです。マーケティングはチームプレーだと思っているので、そこは役割分担をしています。
入山 森岡さんが得意な数学というのは、あいまいさを排除した究極の形式知ですよね。それがもともとお得意なので、逆に究極の暗黙知であるエクストリーム経験をひたすらやって、その真ん中の作業を仲間と一緒に取り組まれているイメージですよね。
森岡 おっしゃる通りです!だから、私は一人じゃ何にもできないんですよ。船長である私はポンコツですけど、周りで一緒にやってくれてる仲間の能力はめっちゃ高いんです。みんなと力を合わせて、1つの目標のためにチームとして取り組んでます。
こういう形式のほうが、みんながそれぞれ貢献した感覚を持ちやすいと思うし、みんなが狙っていく方向に進んでいく状態を感じられるほうが達成感がある。ジャングリアの700億円調達というのも、奇跡だと思うんです。私たちは7年前に創業した会社で、最初の資本金は300万円ですから、普通はできない。
入山 資本金300万円だったんですか(笑)!
森岡 それで長いことやってました。そんな私たちに、オリオンビール様もゆがふホールディングス様もリウボウ様も出資してくださって、ジャングリアの運営会社であるジャパンエンターテイメントが生まれました。今はまだ刀が同社の筆頭株主ですけど、沖縄の株主様も全株主数の7割まで増えてきています。できるだけ成功させて、まだ隣に同じぐらいの広さの土地があって拡張できますので、まずは今回オープンする第一ウェーブを手堅く成功させたい。
まあやってみたら、思った通りにいかない部分もあるでしょうし、思った以上にうまくいく部分もあるでしょうし、最初からべらぼうに成功したりべらぼうに失敗したりはしないと思います。本当の闘いはオープンしてから始まります。仲間の力が本当に必要で、今1500人集めているところです。
入山 本当に大きな貢献ですよね。素晴らしいな。絶対行きます!
沖縄には、スタートアップが結構あるんですよね。彼らは日本や東京ではなく、いきなり東南アジアを見ています。彼ら・彼女らを見ていても、沖縄はこれから大きくなる東南アジア経済圏の一番のハブだなと実感します。
森岡 おっしゃるとおりで、沖縄にアジアの首都があってもおかしくないですよね。沖縄は大きな南国リゾートのシェアを取ってこれる、日本で唯一の存在なんです。日本はもっと沖縄と真剣に向き合ってもっと投資したほうが、沖縄のためにも日本全体のためにもなるはずです。沖縄が豊かになることが、日本が豊かになることにつながります。さりながら今の段階では、まずは派手でなくても堅実な成功ができればと思います。
【次回は5月15日に 【森岡毅×入山章栄対談(7)】 を公開予定>
――本対談シリーズの過去掲載分はこちら――
・第1回「テーマパークが好きな人」と「テストステロン」の切っても切れない深い関係とは?
・第2回「結果が出る人」と「うまくいかない人」の“努力の中身”の決定的な違い
・第3回 スマホゲームに“限界”まで課金してわかったこと 森岡流の消費者理解
・第4回 アニメのファンミーティングに潜り込んでわかったこと 森岡流の消費者理解
・第5回 コンプレックスや嫉妬を乗り越える唯一の本能とは?