何をやってもうまくいかない時期に
朝ドラの仕事がやってきた
不思議な運命のふたつめは、占い。はじめて朝ドラの脚本を手掛けたとき、中園は独自の占いで「空亡期」という、一般的には悪い運気とされる時期に当たっていた。実は中園は、脚本家として活躍する一方で、占い師としても活躍しているのだ。
「『空亡期』とは四柱推命で使用される言葉で、何をやってもうまくいかない時期と言われています。でも、私の習った占いだと、その時期を決して怖れず、他者のために頑張ることでのちのちの自分の足腰を強くするという解釈をしているんですよ。そう思って『花子とアン』に挑んだところ、その後、脚本家として新たなチャンスにつなげることができたんです」
その頃、以前から好評だった『ドクターX』はシリーズを重ね、大河ドラマ『西郷どん』も書いた。
「不思議なことに、あれから12年で、また同じ周期が回ってきたときに、今回の朝ドラの話が来ました。これも逃げるといけないんだよなと思って覚悟を決めて。本当に24時間、皆さんのために頑張って書いています」
ふたつの運命的な導きによってはじまったかのような朝ドラ『あんぱん』。
「やなせさんに描かされているような感じがします。執筆中、なにかに包まれているような感じがして、気がついたら脚本を描き終わっていたみたいなことがときどき起こるんですよ」
第1回の冒頭、中園は「正義は逆転する。じゃあ、決して引っくり返らない正義ってなんだろう。おなかをすかせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」というやなせの言葉の引用を、やなせをモデルにした嵩(北村匠海)に語らせている。
サブタイトルの「人間なんてさみしいね」や「なんのために生まれて」「なにをして生きるのか」もやなせの書いた文章からとったものだ。
「『人間なんてさみしいね』は詩の一節で、私はその詩を読んでやなせさんにお手紙を書こうと思いました。『たった一人で生まれてきて たった一人で死んでいく 人間なんてさみしいね 人間なんておかしいね』という詩を読んだ時、私は父親を亡くしたばかりでした。索漠とした詩なのに、逆にすごく救われたんですよ。