『あんぱん』主人公を
「やなせたかし」にしなかった理由
「やなせさんといえば『アンパンマン』が有名ですが、それ以前から詩や絵本など、たくさんの素敵なお仕事をされています。『あんぱん』を書くことで、やなせさんのことをよりたくさんのかたにお伝えしたいと思っています」
徹底してやなせたかしリスペクト。だが、ドラマの主人公はやなせの妻・暢がモデルである。やなせを主人公にしなかったそのわけは。
「男性主人公の朝ドラもありますが、今回は女性ヒロインでと、NHKから提案がありました。
それで、話し合いを経て、やなせさんを題材にするけれど、奥さんの暢さんをモデルにした人物を主人公にしようということになりました」
ただ、暢には資料がほとんど残っていない。そこは想像で埋めている。
「やなせさんと暢さんの出会いは遅く、それはやなせさんが戦後、高知新聞社に入った時です。だから、物語をやなせさんと結婚したところからはじめる手もあったとは思います。
でも私はどうしてもやなせさんの幼少期を描きたかった。やなせさんの作品に滲む精神性が確立されたのは、幼少期から戦中にかけてであって、決して外すことはできないと思いました。そこで、やなせさんをモデルにした嵩と暢さんをモデルにしたのぶを幼馴染にして、のぶの幼少期はほぼ想像で書くことにしたんです」
参考にしたのは、やなせが幼少期、女の子と遊んでいたという事実だった。その女の子をのぶにしてみたらと中園は考えたのだ。
「やなせさんは幼い頃、母親に捨てられているので、すごく寂しかっただろうと思うんですよ。だからこそ、元気のいい明るい女の子が子どものやなせさんのそばにいてくれたらいいなという私の願望ものぶには込められています」
嵩とのぶの恋を描くのが楽しいと言う。
「ふたりが早く出会っていたら、こういう会話をして、こういうことが起きるのではないかという私の想像は多分ズレてはいないと思います。そこにはなぜか自信があるんですよ。
私はラブストーリーが大好きなのですが、いつの間にかお仕事ドラマの依頼のほうが増えてしまったので、久々にのぶと嵩の大恋愛を書けることも楽しいです」