――どうしたら、そうした視野を持てるのでしょうか。

 たとえば、アップルを率いたスティーブ・ジョブズ氏は「こんな製品があったらいいな」と自分目線で新製品を考案し、かなりの頻度で失敗していました。しかしそれ以上に、iPhoneやiPadなどで世界的なヒットを収めた功績が注目されています。それらは現在起点ではなく、未来起点の発想でした。彼の美学や美意識で、これまでにないものを開発したのです。

 iPhoneは単純に言えば、インターネットと音楽再生機能が付いたモバイルフォンです。当時は専門家の間でも「使いにくい、ボタンがない、つながりにくい。こんなものは絶対売れないだろう」と酷評されていました。高名なマーケティング戦略家、アル・ライズ氏もその1人です。しかし、フタを開けてみればiPhoneはすごく売れましたよね。未来起点で考えられたものは売れる。これは今に始まったことではないのです。

優秀なマーケターは
「現場」でセンスを磨く

――とはいえ、世の中の全ての経営者やマーケターがジョブズ氏のような才能を持っているわけではありません。普段からどういう考え方や仕事の仕方をしていたら、そうしたセンスが身に付くのでしょうか。

 みんな、生まれたときからセンスがあるわけではない。名を馳せた経営者やマーケターに共通するのは、現場を見ていることです。

「現場主義」と言うと古臭いイメージを抱くかもしれませんが、これは最も重要な考え方です。プロダクトやサービスを買ってくれる顧客が、なぜわざわざ店の前に並ぶのか。そのニーズを分析するのが、ビジネスで成功するための一歩です。

 たとえば、アップルと対照的なのが現在のソニーです。かつてソニーは、共同創業者の井深大氏が「持ち運びできるカセットプレーヤーが欲しい」と思ったことをきっかけにウォークマンを発案して、大ブレイクしました。その後同社は圧倒的なリーダーシップをとる創業者が引退し、大企業化した2000年代以降、デジタル化が進む中で、iPodのような製品や、音楽再生機能が付いた携帯電話の市場において、スティーブ・ジョブズ氏が率い続けたアップルの後塵を拝しました。