この対比は非常に興味深くて、未来起点で考えるリーダーがいる組織と、現状の延長線上で考えるリーダーしかない組織では、ものすごく差がついてしまうという例だと思います。

 その意味でも、消費者がお金や時間を使ってでも手に入れようとする潜在的な新しいニーズを見つけようと、人間の欲望が満たされる現場に行き、じっくり観察し、話を聞き続けることは、本当に大切です。

ラーメン店の行列から学べる
想像もしなかった成功へのヒント

 人気ラーメン店の行列にもヒントはあります。ひょっとすると、並んでいるお客さんを観察して、お菓子や音楽やエンタメに関するニーズを見出せることもあるかもしれません。

 こってりしたラーメンのファンの中には、ダイエット中に「今日だけは無茶苦茶食べてもいい」という日を決めて並んでいる人もいるかもしれない。禁欲生活のカタルシスとしてラーメンを食べるというニーズがある人なら、口の中に入れると爽快にはじけるお菓子や、大泣きしてすっきりできる映画などにも興味を示すかもしれません。一つの現場を観察することで、相似形のニーズや商品のアイデアを考えつくこともあるわけです。センスって、このように現場起点で磨かれていくものではないでしょうか。

――「顧客がお金を払って、時間を使ってでも入手したいと思う価値を作る」のが、これからのマーケターの重要な仕事であると提言されています。それは現場を見ることから始まるのですね。

 そうですね。現場は人間の欲望を満たす場所なんです。そこで発生している事象は、全部AIがデータ化して取り込んでしまう。繁盛しているラーメン店だったら、商品の特徴、行列に並んでいる人の属性、店のロケーション、駅からの人流といったデータは全てAIによって分析され、それを真似たら成功できる確率が上がる。しかし、まだ現場でしか見えていない消費者の「心の動き」はAIに取り込むことはできない。そこを分析するのがマーケターなのです。

PROFILE
西口一希(にしぐち・かずき)
1967年生まれ。兵庫県出身。大阪大学経済学部卒。90年P&Gジャパン入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクターを経て、2006年ロート製薬に入社。執行役員マーケティング本部本部長として、「肌ラボ」「デ・オウ」など60以上のブランドを統括。15年ロクシタンジャポン代表取締役社長。グループ過去最高利益に貢献し、アジア人初のグローバルエグゼクティブコミッティーメンバーに選出。17年スマートニュース参画。執行役員マーケティング担当。19年M-Forceを創業、その後マクロミルに売却。現在、Strategy Partners代表取締役社長、Wisdom Evolution Company代表取締役社長。『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』『アフターコロナのマーケティング戦略 最重要ポイント40』『ビジネスの結果が変わるN1分析』『ブランディングの誤解 P&Gでの失敗でたどり着いた本質』など著書多数。

※「西口一希氏に聞く、マーケティングの『いま』と『これから』(中)」は5月26日公開です。