何かが全身を駆け抜け、すべての力が抜けた。
しかし弁護士チームは違った。「どうしたら打開できるか考えよう」「できることは何でもやってみよう」と言う。まずは、業務監査委員会で出た意見に対する説明文を作成して提出した。
合理的で納得できる文章だと思ったが、その程度では通らなかった。委員会では、福島文雄(編集部注/著者の父で創業者、前代表)を中心とした過去の経営を問われ、その説明に苦戦していると聞いた。足利銀行の中には、私たちのために日夜動いてくれている人たちがいる。私が立ち止まるわけにはいかなかった。
世襲だと批判され
退任を求められる
あっという間に1カ月が経過し、議決票の集計期限は刻一刻と迫っていた。
10月15日の金曜日、私は川原先生、市野澤先生、白井先生(編集部注/筆者の民事再生手続きを支えた弁護士チーム。川原史郎氏、市野澤要治氏、白井徹氏)とともに足利銀行に呼ばれて融資部長らと面談した。過去の有責性と透明性が指摘されるなか、何よりも私、つまり福島範治の世襲に対する批判の声が出ているということだった。さらに、経営の透明性を担保するために、社外取締役制度の導入や過去の問題を調査する機関の設置などが提案された。
ここで突然、融資部長が「役員に呼ばれた」と席を外した。何かあったのかと心配していると、戻ってきた部長にこう言われた。
「副社長にはご退任いただき、業務に専任する体制を取ってもらいたい。副社長が来られた経緯はよく存じ上げていますが、再生のために名を捨て、実を取っていただきたい」
この言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。しかしどこか冷静な自分もいた。
世襲問題が批判されていると聞けば、このような事態になることは多少は予想できた。会社を辞める時が来たのかもしれないと思った。「物事を大局的に捉えた上で判断するつもりです」と答え、週明けに再訪する約束をした。
代表取締役副社長として、これまで経営を担ってきたという自負はあった。しかし「福島」という名前を背負っている以上、世間から見れば世襲だ。出生の背景や継承の経緯は関係ない。